instagramのムービーをより楽しく遊ぶための考察
instagramにムービー機能が追加されたのでちょこちょこ撮っては遊んでいます。じつはぼくはむかし自主映画をつくったりもしていたので、まあいわゆる昔とった杵柄というやつですね。
で、まず世界中の人がアップしている映像を見てて思ったのは「いいなあ!」「Cool!」と思うものもたくさんあるものの、まだまだ写真の延長と言いますか、美しい風景を固定ワンショットで撮っているものが多いなという印象があったんですね。
たとえば
「クルマ(電車)パターン。
Video by oasisjae • Instagram
Video by soteeoh • Instagram
解決法
こうゆうのはたとえばヨコにしちゃう
Video by vdubl • Instagram
とか
乗り込んじゃう。
Video by kinggoldchains • Instagram
とか
ちょっと演出をいれてみる
Video by laylah • Instagram
ことでずいぶん変化をつけられます。もちろん元の映像はこれはこれで素敵だしダメなわけではないんですけど「写真との違い」という意味に絞って見ればもうすこし工夫ほしいなと思います。たとえばもっと長い長い映像のラストシーンのワンカットとしてはこのままでもいい映像なんですけどね。
次は「海・湖・川」パターン。
Video by nealkumar • Instagramとか。
これはもう遠景の固定カメラ状態で写真との違いがいちばん出にくい。これも映画的にはつなぎのカットなんです。メインにはなりえない。唯一の救いは鳥がいい役者になってるんですけど、まあ偶然ですよね。偶然も映像のひとつの重要なエレメントではあるけど、自ら偶然を演出は出来ないのでね。
解決法
もしぼくが海で撮るなら断然こう行きたい。
「人しゃべる」パターン。
Video by jam_nekojump • Instagram
プロフィールを見る限り、この方はタイのシンガーのようなのでまあ話者が有名人でそのファンが見るならこれでいいんですけどそうでなきゃ退屈ですよね。
解決法
みたいに船に乗ったりすることで印象が大きく変えられます。話すストーリーに合わせてシチュエーションを選ぶとかも重要ですよね。
などなど。
せっかくのムービーなのだから動画ならではのアプローチをしたほうがいいんじゃないかなあと俄然思うんですよね。もったいない。では動画ならではのアプローチというものは何かというと、そのひとつとして「編集」です。ぼくは「カットとカットのあいだに潜む魔法」と呼んでいます。編集こそがじつは映画づくりのうえでもっとも重要な作業だと言い切ってもいい。逆に言えば編集をある程度想定したうえで現場に行くんです。
たとえば北野武監督は台本がなく、撮影の当日に現場で台詞を役者にわたしてパパッと動きを伝えてリハもさらっとやってあとはドンで回しちゃうんだそうです。これはテレビのコントの作り方なんでしょうね。テレビ局入って芸人同士その場でパパっとあわせちゃう。アイデアもそこで足せるものは足して。こういうのは監督に明確な「カット割」がもう頭の中で出来あがっていて、現場ではそれを「再現するだけ」みたいなタイプの監督のやり方で(じつはぼくもこのタイプだったのですが)これはこれで相当な才能がないとできません。映画監督の作家性が問われるような作品はこのタイプが多いと思います。
逆に、綿密なスタッフ間の打ち合わせと修正を重ねて、まず完成度の高い絵コンテを作り込んでいって、そのうえで現場でさらに何パターンも取り直すというタイプの人もいます。ハリウッドの巨大予算映画などはこのタイプではないかなと思います。システムとして撮っているような映画ですね。
また溝口健二みたいに「超がつく長回し」でヨーロッパの監督たちを驚かせた人もいます。これは基本的には役者の演技力と舞台美術の完成度が問われます。とにかく刻みのカットとか説明的な寄りのカットとか、そういう編集的アプローチがなくすべて一発どりなので、10分の長回しは台詞ひとつトチってもぜんぶイチからやり直しです。これはこれで大変なんです。まあカットでつなぐ方がごまかしもきくし楽な面もあるにはあるんです。
で、前置きが長くなりましたが、映画的映像という点で言えば、ベースの技術論としてはこのように「カットとカットの切り替え」にあるんです。それは「音楽における和音」や「言葉における文法」と同じで、この絵とこの絵を結ぶとなぜかその切り替わった瞬間に「ぞわぞわ」っとくる映像というのがあるんです。すぐれた映画監督と呼ばれる人の映像にはかならずこの「ぞわぞわ」とくるカットの魔法があるんです。
ともあれ、instagramのムービーが広く使われるようになり共有されることで、ふつうの人々が「映像」というものの作り方に関心を持ち、ああ映像にもこういう「文法」や「和音」があるんだな、ということが広く認識されるようになれば、たとえば「ダイハード」とか「ターミネーター」みたいな映画ばっかりじゃなくて(ダイハードはぼくもわりに好きなのですが)、たとえばゴダールとか、フェリーニとか、日本だと小津さんとか、そういう映画的な映画の再評価につながればいいなあとか、映画的な映画を作る作家さんが増えていく土台作り、裾野を広げるきっかけのひとつになればなあと、思ったりしています。
ちなみにぼくが撮った映像です。
Video by fuwa1q71 • Instagram
Video by fuwa1q71 • Instagram
頭の中でパパッと描いてすぐ撮ってるのでまだまだですが、ちゃんと紙にカット割りを書いてから撮るようにしてみると「単なる生活の記録映像」のクオリティがずいぶんと変わり、ひとりの人間の生活を自分で記録するドキュメンタリーフィルムに変化するだろうと思います。そんな映像があふれ、世界中で共有されるようになるのは、いいことだと思うんです。
そういうライフログ的な意味では蜷川実花さんのがよかったです。
Video by ninagawamika • Instagram
前にも書きましたが、ブログやSNSや食べログみたいなサイトで素人が書く文章があふれることは、逆にプロの書く文章のクオリティを際立たせることになるし、みんなが自分で書いたり撮ったり編集したりすることで、逆にその道のプロの技術へのリスペクトだったり、よりよいものへの関心・再評価につながるのではないかと(悲観ばかりもしていられないので)大いに期待しているわけなんです。みんなもムービー撮ってみてください!