ゴジマエ~後日読み返してもらいたいささやかなまえがき~

1971年生まれ。京都府出身・在住。コピーライター・プランナー。約15年間、大阪の広告制作会社勤務ののち2012年7月からフリーランスに。キャッチコピー一発から広告全体のプランニング・進行管理、企業の販促企画(企画書作成)まで、会社案内や学校案内・フリーペーパーなどの取材からライティングまで、幅広くやってます。 お仕事の依頼などはfuwa1q71@gmail.comまで。 

松尾優さんの全国デビューアルバム「Kiss and Fly」発売に寄せて

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今日はENJOY KYOTO Issue6で取材させていただいた松尾優さんの全国CDデビューアルバム「Kiss and Fly」の発売日でした。Twitterをちらちら眺めていると少なくないお店で売切が続出しているようです。こうやって自分が好きなアーティストの人気が着実に広がっていくのを見るのはとてもうれしいものですね。

*松尾優 OFFICIAL SITE*

Amazon.co.jp: Kiss and Fly: 音楽


じつはぼくが松尾優さんの歌をはじめて聴いたのはもう4年も前のことで、彼女がまだ大学生のころでした。それから時を経て、こうやって取材させてもらったり、なんとこういうかたちでレビューを書かせていただいたり、おまけに記念すべきデビューアルバムの歌詞カードのSpecial Thanksに名前を入れていただいたり。おめでとうであると同時に、ありがとうという感謝の気持ちでいっぱいです。


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フリーになって、京都に戻ってきて。ジャンル違いのものづくりの人たちと、いろんなかたちでコラボしたり現場に立ちあわせていただくことが多くなりました。それはぼくを勇気づけ、叱咤激励し、奮い立たせてくれます。そういう環境で仕事ができる、できているということにほんとうに感謝したいです。

くるりの岸田さんにお話を伺ったとき「カウンターって呼ばれるような音楽やカルチャーって東京とか大阪とかで生まれているんですよね」というようなことを仰っていた。「京都はというとそこまでいかない、ふつうっぽいけどちょっと違うっていう感じなのかな」。でもそれってぼくはとても大事なことなんじゃないかと思うんです。

若い時はとにかくとんがっていること、新しい音楽であることが最重要視されるんだけど、手あかにまみれる勇気というのかな、それなりに普遍性があってまっすぐでだいたいみんながあんまりキライにならない、じつはそういうものをつくる方がはるかに難しいし、息の長い愛され方をするんじゃないかって、40も過ぎるとねだんだんわかってくるんですよ。それで、そういうのがじつは京都の人は上手なんじゃないかってわりと思うんです。

松尾優さんの歌を聴いていると、そういうことを考えさせられます。ポピュラーミュージックの歴史を塗り替えるような斬新な音楽という感じのものでは決してないんだけれど、普遍的でまっすぐで、しっかりした技術に裏打ちされていてそれでいてポップでもある。気づいたら鼻歌で歌ってたりするような歌(CANとか鼻歌で歌えないもんなあ)。子どももいっしょに歌える歌(うちのひかるさんも歌ってる!)。たぶん年をとっても聴ける歌(モーターヘッドとかジューダスプリーストとかはさすがにもう聴かないしね)。

世の人びとは、いままで誰も知らなかった歴史を変えるような新しい発見ばっかり探してるようにメディアは流しているんだけど、本当はすごくふつうでちょっとだけいい、っていうようなものを求めているんじゃないかな。
もし、いいね!って思ったらいちど松尾優さんの歌を、できれば「ながら」じゃなくて、ただただ音楽を聴くための時間を1曲わずか3,4分でもいいからとってもらって、眼を閉じてじっくり聴いてみてください。それでぜひ一家に一枚、置いておいてもらえたらなあと思うのですよ。



教室の窓から_MV / 松尾優 - YouTube

奇跡 くるりへの取材

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外国人向け観光フリーペーパーのENJOY KYOTO9月号を「くるりと音博」を中心に京都の音楽ネタでいこうとぼくが言ったのはじつは3月の初めごろ。もう半年も前のことでした。きっかけは3月にメルボルンに行ったときに「あ!」と気づいたことがあった。それは、海外旅行者が異国に地に降り立って、まず空港のアナウンスとか、街の人がおしゃべりする聞き慣れない当地の言語にはじまり、教会の鐘の音、日本とは違うパトカーのサイレンやクラクションの音などなど、まるでそれまで忘れていた野生の感覚を取り戻すみたいに、無意識のうちに耳からの情報に注意が向けられるように感じられるということに、ふと気づいたんですね。

あと、旅から帰って自宅のベッドに沈み込んで目を閉じたとき、ふとフラッシュバックしてくるのは、出会った人々の顔でもなければ、絵葉書のように美しい観光地の風景でもなく、やはりその街の「音」だったりすることがけっこうあります。それはまるで、日本では耳をふさいで生活していたのかとさえ思いたくなるほど、「音」が鮮やかに感じられる、とくに海外の旅先では聴覚が研ぎ澄まされる、という点に気づいたことが、この企画のスタートラインだったんです。

いっぽうで、従来のメディアや行政主体の海外向けの観光PRというもののなかに「音」「音楽」という視点がわりとすっぽり抜け落ちているんじゃないかなという事実に辿り着いた。そこで、「京都」「街の音」「市民」「生活」「音楽」「歌」「参加する観光」といったキーワードを並べてみたとき、もっともふさわしいのが「京都音楽博覧会」だと直感した、というわけです。

そこで早速あらためて音博のサイトを見てみると、そのなかでちょうど岸田さんは音博について「文化と芸術、そして国際交流の街、京都。そんな街並みにふさわしい素敵な音楽博覧会をめざします」と語っていらっしゃいました。佐藤さんも「世界の音楽の博覧会をくるりの地元である京都で開催するというのが音博のスタートからの理念」とおっしゃっていました。さらに公式ウェブサイトの主催者あいさつの最後は「新しい音楽文化をこの京都の街から世界に向け発信し、参加していただく全ての人と一緒に愉しむ一日にしたいと思います」と記されています。
なんだ、さっき並べたキーワードとほとんど一致するじゃないか!これはもうやるしかない!そんな感じだった。そして、こういうときはわりとミラクルが起きるもので、準備をしていくうちにそれは実際に起きていくわけです。

まずENJOY KYOTOではもともと、歴史的文化遺産やいわゆる名所・観光地だけではない、過去と未来につながる文化、街をつくっている市民ひとりひとりのなかに息づく京都らしさ、現代的な生活スタイルの中にあっても、それでもどうしても染みだしてくる普遍的な慣習やカルチャーを紹介し、京都の独自性の中から逆に世界との共通点を見いだしたいと考えてきました。またSNSなども使いながら、京都で世界のいろんな人たちが友達になれるメディアを作ろうというテーマを掲げています(このあたりはまだまだこれからです)。

伝統をありがたがるだけじゃなく、コンテンポラリーな同時代性の中に、遠い未来や過去を見出していくことも、ある意味で京都らしさではないかなあと。ある意味これはとても京都的な時間の感覚かもしれないけど、たとえば千年後(!)もしかしたら音博も、いずれは祇園祭や五山の送り火のように、秋の初めに行われる伝統的な京都のお祭りとして海外の観光客が訪れるイベントになっているかもしれないわけです。ぼくらはいま、その黎明期を見ているのかもしれない。しかもちょうど今年の音博はレバノンやアルゼンチンなど例年以上に多様な国の音楽家が集まることが決まっていました。そんなことも、なんとなく導かれたような感じもして、いまENJOY KYOTOで取り上げなくてどうするんだっていう思いが日に日に大きくなっていったのでした。

とはいえ、ギャラも出せない無名のフリーペーパーで、個人的つてもなく、どうやってブッキングすればよいかと、いろんな人を介してお願いしようとしては見たものの、当然なかなかかんたんにはいかず、そこまでにけっこう時間がかかってしまいました。結局6月に入ってようやくアポが取れ、22日の誓願寺の公開収録の合間に時間が取ってもらえそう、というニュースが飛び込んできて、いやあそれはもうすごくうれしかった。

と同時に、本当にインタビューが実現できるかどうかわからなかったから、その時点ではまだ綿密に自分のなかで撮影のイメージが練れていなかったので「これは困った」というのも反面ありました。お寺でやると決まったのは撮影のほぼ10日ほど前のことでしたから、けっこうプレッシャーはありましたね。おまけに前回も書いたように事前の打ち合わせもなにもない完全なぶっつけなので、なにをどこまでやっていただけるのかも、正直その日にご説明してからみたいな状態でした。でもなんていうか、もう逆にここまできたら開き直るしかないというか、こっちもそれなりに修羅場はくぐって来てるので、イザとなったらなんとかなろうだろうと。ひさしぶりに緊張感を楽しむ感じでもって臨める撮影になりました。

でも撮影当日、結果的には幸いなことにこちらがイメージしていた撮影に対し、くるりさんサイドも快く承諾いただけて、手前味噌ですけど冒頭で掲げたようなホントに素晴らしい紙面になっています。インタビューも掲載していない話もたくさんあって、ひとつひとつが楽しくも意義深いお話しばかりでした。あれ、どっかで全文掲載とかできないかなあと思うくらい、すごい楽しいインタビューになりました。この場を借りて、くるりの皆さん、それからマネージャーさん、あとこの誓願寺での公開録音イベントの合間をお邪魔してわれわれの取材撮影が終わるまで待っていただいたFM802の関係者の皆さまにも感謝の意を述べたいと思います。ありがとうございました。

世の中ではこのところ音楽が売れないとかっていわれていて、いろいろぼくも考えるとことがありました。小学校1年生の時に入院した際に、ラジオで高島忠夫の全国歌謡ベストテンを毎週聴いてて、そこからゴダイゴとかツイストとかいわゆるポップスが好きになって、それから中学生高校生の時は、いちばん音楽を聞いた時代だった。当時はアナログレコードで、レコード屋さんで買ってきたレコードの封を切ると塩化ビニールの独特のツンと来る匂いがして、ジャケットの紙もまだ印刷したての紙とインクが放つ匂いがしてて。それで当時はまだネットなんてなかったですから、針を落とす瞬間までどんな音楽かまったくわからない。好きなアーティストでも新しいアルバムでまったく違う音楽に取り組んでいたりすることがあるから、針を落として最初の一音がバッと鳴る時の、あの感動とかワクワク感とかが、ほんとうにいまでも忘れられない。だからそんなふうに、少年時代はほんとうに音楽に救われたようなところはあるんで、恩返しじゃないけど、なにか出来たらという思いも、ちょっとあったりもしました。

ちょっとだけ偉そうに言わせてもらうと、たぶん音楽の聴かれ方が変わっていることに、きっとまだ業界がついていけてないだけで、お金を出しても聞きたい音楽というのは、くるりをはじめ、まだまだちゃんと今後も聴かれていくとぼくは思っています。その環境が変わればまた、音楽はむしろこれまで以上に聴かれていくんだろうと、ぼくはどこかで思っています。今回の「観光と音楽」というのも、ひとつそういう取り組みとしてヒントになるかなあという思いもありました。しかもちょうど、くるりの皆さんは、ちょうどマネジメントも自分たちでやられるようになられたばかりで、ほかにもハイレゾ音源の配信とか、いろいろと新しいチャレンジをされています。だから、まったくの偶然なんですけど、そういういくつもの重なる思いがあって、今回の取材につながりました。

ほんとうにあらためて、くるりの皆さんありがとうございました。もうすぐ音博(京都音楽博覧会2014 in 梅小路公園)です。そしてその前には話題の新譜(くるり ニューアルバム「THE PIER」特設サイト)も発売になります。たぶんこのアルバムはぼくにとって、小学生のころ学校から帰ると実家の近所にあったレコード店「イケガミ」にマイケルジャクソンの「スリラー」やYMOの「浮気なぼくら」を買いに走り、家に帰って針を落としたあの日の夕方のような、ワクワクとドキドキがよみがえる、そしてきっと長く聴くことになる大切なアルバムになるんだろうなあと、いまから楽しみでしょうがないんだよなあ。


くるり Liberty&Gravity / Quruli Liberty&Gravity - YouTube



Quruli - Kiseki (Live) - YouTube

ENJOY KYOTO Issue6:京都音楽特集号について

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この夏はほんとうにすごい夏でした。なんといってもくるりのメンバーにお会いしたのが6月22日の誓願寺。そこからつじあやのさん、松尾優さん、小松正史さん、たゆたう、mocaさんと、さまざまなミュージシャンの方々にインタビューをしました。終わってみての感想としては、正直言ってすんごい疲れました。理由は、今回いままでとは全く違うつくりかたにチャレンジしたということが大きかったと思います。
雑誌や編集系の仕事ははまだしも、とりわけ広告の世界だと、事前の準備とすり合わせをかなり綿密にやって、もうほとんど隙がないくらいにビシッとうめてですね、それで現場はほとんどそのイメージの再現だけみたいな状態にして向かうことが多いんです。そこまでやっても不測の事態というのは起きるときには起きるのですが、そういう場合でもそれまでの綿密な準備があったからなんとか対応できるみたいなところがけっこうあるんです。

それが今回は、みなさん東京に拠点があったり、ツアーの真っ最中だったり、新しいアルバムの準備期間だったりということもあり、事前の顔合わせや打ち合わせはもちろん、気軽に何度もやりとりをするということがそうそうできるわけじゃないところからのスタートでした。とりわけ、くるりの場合は共通の知人を介してブッキングをお願いしていたこともあり、直接メンバーの皆さんやマネージャーさんとぼくが事前にお話しできていたわけではなかったのです。ですからその人づてに事前に「前向きな感じで出ていただけるようですよ」というお話を伺ってはいたものの、どこかで「ほんとにだいじょうぶなのかな?」とかね、まあなんといってもこちとら無名のフリーペーパーですしね。やっぱりそういう緊張感はぼくのなかにはずっとあったんです。

くわしくはまた書きたいと思うのですが、たとえば巻頭見開きでドーンと撮ろうとしていたメインカットも、現実として撮影の場所やシチュエーション自体のコンセンサスが取れてないとか、そういう不安定要素がけっこうあった。なのでそこすらも、実際当日になって蓋を開けるまではなにがどうなるかはわからない、という想定で臨んでいました。ライブ直線の楽屋でまだアレンジうんうん考えてて、舞台出てから皆さんに伝えてるみたいな。「できないよ!」って言われたらどーすんだ、みたいなね。ほんとにここまで自分で作り上げてみるまでうまくいくかわかんない、インプロビゼーションに近い形でつくったENJOY KYOTOというのは、たぶんはじめてなんじゃないかな。あ、Issue2で書家の川尾朋子さんにアドリブで「今年を表す漢字を一文字で」とか相当なムリを言って書いていただいて以来かな。ともあれ、かつてぼくが若かりし頃に自主映画をつくってたときの現場の緊張感を思い出しました。

結果的にはうまくいったし、こういうやりかたで作ってみて良かったなあと今は思います。たくさんのアーティストの方々に刺激されて、自分も元アートを志向していたときの感覚がよみがえってくる感じでした。だから、個人的には現場はすごく楽しかったですね。すんごい緊張感でもあるんだけどね。勝負してるというか、勝負を楽しんでる感じがありました。ああ、こういう作り方もできるんだなあと、またひとつ引き出しが増えた夏でした。

とまあ、そういう風に作られた今回のENJOY KYOTOのIssue6音楽特集号はいよいよ本日リリースです。もうひとりのライタ-が担当した10FEETやYeYe、それからMUSEの行貞さんとMetroの林さん、10FEETのTakumaさんの3人による鼎談もお楽しみに!



【ENJOY KYOTOおもな設置先】
京都市内ホテル(アーバンホテル京都、ホテルグランヴィア京都ハイアットリージェンシー京都、グランドプリンセスホテル京都、ウェスティン都ホテル京都、京都ホテルオークラ、ホテル日航プリンセス、京都ブライトンホテル、ホテルカンラ京都、ホテルアンテルーム京都、イビススタイルズ京都ステーション、京都糸屋ホテル)、旅館、ゲストハウス、飲食店、社寺仏閣、ヤサカタクシー、新風館京都国際マンガミュージアム、嵐山駅 はんなり・ほっこりスクエアなど。その他、東京都、関西空港滋賀県ホテル・旅館数カ所などにも。

ウクライナで民間機が撃墜され、イスラエルがガザに地上侵攻した日に、観光の役割について考えてみました。

「紛争」と「観光」はたぶん正反対の概念です。紛争は、異国や異人種、異文化や異教を敵視し、排除しようとすることで起こります。いっぽうで観光は異国や異人種、異文化や異教をリスペクトし、近づこうとする行為だからです。
先日、ENJOY KYOTOの取材で出会った女性はイスラエルの著述家でした。撮影モデルを手伝ってくれた男性はサウジ出身。他にも豪州、英国、フランス、南アフリカ、韓国、モンゴル、いろんな国の人が、いろんなかたちで製作に関わってくれています。そして彼らは「日本文化へのリスペクト」という共通項でひとつになれるんです。
異国・異文化における「違い」「驚き」「発見」というのは観光「産業」としては重要なファクターなんだけど、ぼくは殊更に差異を強調するのではなく、むしろその差異の中から共通点を見出すことにむしろ価値を置いて記事を書いています。たとえば、代々家業の提灯職人親子から見える、その国固有の文化の継承の難しさと大切さ、という近代化していくうえでどの国にも見られる共通課題です。
そこには「グローバル化」というのは、世界がひとつの価値観で統一されることではなく、各国や地域固有の文化や産業が、むしろその違いによって共通の美点や課題を見出し、互いにリスペクトしながらユナイトしていくことであるべきだ、というぼくなりの信念があるからなんです。
そもそも、朝起きて、食べて、笑って、泣いて、歌って、夜眠る。市民の生活自体は、そんなに大きく変わらないのだから、宗教や文化や哲学に対立があっても、市民一人一人の喜びは、きっと分かち合えるはずだとぼくは愚直に思っています。
他者や他文化へのリスペクトを持つことが平和の近道になるとしたら、外国人向け観光メディアを通じて何かできないか。もちろん無謀な問いであるし、結論や明確な答えなんて出ないけど、それでもとにかく考え続けることが大事なんだといまは思います。
以上が、ウクライナで民間機が撃墜され、イスラエルガザ地区に侵攻した日に、メディアを持つ人間のはしくれとして、外国人観光の現場でものを考える人間のはしくれとして、世界の隅っこで自分なりに考えてみたことでした。誰かを非難するより、自分に何ができるかを考えることの方が、大事なんじゃないかな。おわり。

ENJOY KYOTO 「いいね!」の数が1000を超えました。

いよいよというか、ついにというか、ENJOY KYOTOのフェイスブックページ(ENJOY KYOTO | Facebook)に対する「Like!」いわゆる「いいね!」の数がおかげさまで1000を超えました。「Like!」を押してくれる人のタイプにも変化が見られ、最近では明らかにわれわれ編集スタッフの友人の友人みたいな人ではない、純粋に外国人観光客の「読者」と思われる方々からの「いいね!」が増えてきています。また、最新号紙面に載せた小嶋商店さんのワークショップへの参加申込みのリアクションなどを見ても、メディアとしての浸透度や手ごたえを実感しています。

ちょっとここらで堅い話をしますと、ぼくはグローバルというのは世界の価値観が均一になることではなく、むしろ各国や民族、宗教や慣習といった「ローカル」が「共存」するかたちで「ユナイト」すること、それこそがほんとうのグローバルだと思っているところがあるので、世界に向けて日本というローカルカルチャーをわかりやすく発信するにあって京都ほどふさわしい街はないと、それがENJOY KYOTOの意義のひとつでもあります。

それで今回、たとえば小嶋商店の特集では「父と息子=師と弟子」ということをひとつのテーマに書きました。これはたとえば日本の伝統文化の継承という、まあ言ってしまえばありていというかわかりやすい内容を語りながら、同時にたとえばイタリアの靴職人や鞄職人であったり、ドイツの時計職人だったり、こういうことというのは世界のどこでも起こっていて、とくに中国や東南アジア、中東やアフリカ諸国など、いままさに近代化を推し進めている国にとっては、リアルタイムで直面している危機なわけですね。そういう世界が近代化していく中でどの国や民族でも経験し直面する文化の衰退、もっと身近に言えば家業というものの消失が、通底するテーマにもなっていたりします。

で、ぼくに言わせれば実はこれこそがまさにグローバルなテーマであるので、おそらく共感してもらいやすいだろうという狙いがあったわけです。また単に日本文化を記事にしてそれを英語に移し替えるのではなく、市民の生活や文化の持つ世界共通の哲学そのものを移し替えていく作業を僕なりにしているつもりであって、今回の記事はその作業のひとつの成果だと自負しています。

さて、いまやっているフリーペーパーの編集はもちろんいちばん大事な、いわば基幹事業であってこれが母体であることは今後も変わりありません。ただ、ENJOY KYOTOというプラットフォームを使ってできることはまだまだたくさんあって、その「たくさんある」ということがそのまま、京都の観光における課題なのだろうとも思っていますし、取り組むべき課題があるというのは基本的に良いことだと思っているところです。
だから大変であると同時に楽しみでもあるわけでして、ただそれらは自分たちだけでできることではなく、いろんな人やチームとコラボしながら今後つくっていくプロジェクトになっていくことだろうと思います。

というわけで、これまでお世話になった方やご贔屓いただいた皆さんはもちろん、個々にそれぞれの方法で京都の観光に携わってがんばっている人たちとも一緒になって、今まで以上に京都を楽しめるメディアやサービスを作っていこうと思っています。どうか、これからも、よろしくお願いします。

遠くまで旅を続ける人たちへ 小沢健二のいいとも出演について

小沢健二が出演した「笑っていいとも!」を見ました。王子様キャラ以降の彼しか知らない人は小沢健二を「人畜無害みたいのお坊ちゃん」みたいに言う人がいるけど、かつてフリッパーズ・ギター時代の彼はARBとか矢沢永吉とかユニコーンとかムーンライダースなんかを雑誌上で実名上げてディスって各バンドのファンに非難されてたんですよね。それに取材に遅刻するわ、インタビュアー女子をマジ泣きさせるわ、見た目と違って当時いちばん生意気でパンクな存在だった。そこがけっこう好きだったんです。
見た目カラフルだけど中身は毒、みたいな。合成着色料だらけのジュースみたいなたとえを当時されていましたね。大晦日のレコード大賞で司会の和田アキコに「フリッパーズギターのドラムです」とか答えたり、そういう生放送向きじゃない危うさがあったんです。

ソロになってからの小沢健二は、そこからもうすこし大人になっていました。デビューアルバムの「犬は吠えるがキャラバンは進む」では、かなりそぎ落としたソリッドな音と「ぼけたモノクロテレビじゃなくてハイビジョンでくっきり描いてるから」と自ら評した精密な歌詞が、明らかにフリッパーズというイノセンスからの卒業を感じさせる、大人のアーバンロックに仕上がっていました。
それからほんの1年の後に突然「LIFE」を発表し、「オザケン」「王子様」に変身します。これは彼らしいラディカルさの表現法というか、なんせイギリスのインディーズロックマニアのひねくれた青年が「みんなのオザケン(世を忍ぶ仮の姿)」として紅白とかお茶の間に出てる、ということのラディカルさだったと思うんです。ほとんど伝わってないけどね(笑)。

ぼくはこの劇的な変化を、東大在学中に書いた「喪失」で文学賞を受賞したものの断筆し、約10年後に突然軽快で洒脱な文体による「薫クン四部作」シリーズを発表した庄司薫の変貌と重ねていました。
「愛とは」「死とは」「人生とは」という文学的なテーマを、文学的な言葉と心理描写で語るのではなく、ありふれた日常の風景描写と若者の恋模様のなかに落とし込んでいく、という点で小沢健二の変化と、庄司薫の変化は似通っていました。ふたりとも東京育ちのお坊ちゃんで東大卒で、シュッとした男前というところも同じですね。

さて、前置きが長くなったんですが、こうしていろんな変化を彼自身経験して、日本を出て、海外に住んで、外国人と結婚して、父親にもなって。16年という時間は彼にとっても、それなりに長い旅だったと思うんです。
だから2014-03-20 - 逆エビ日記Ver3.0というような、「旅に出られなかったタモリへのメッセージ」という読み方もあって、それはそれで「なるほどなあ」と思いっきり首を縦にして頷いちゃうんですけど、それでもぼくの印象はほんの少しだけ違っていたわけです。

ぼくは思うのですけど、彼はおそらく、「いいとも」という長く続いた番組それ自体も、ひとつの「旅」ととらえていて、それでその長い長い旅がひとまず終わることについて、その司会者であり、自らの歌詞に関しての理解者であるタモリさんに向けて、ごく個人的に歌を贈りたかった。そんな感じを受け取りました。実際、約束事も、テレビらしいやりとりも一切なく、ただリスペクトしあっている者同士だけが持つ、ことばの少ないコミュニケーションがそこにはたしかにありました。
事前に聞いた話ではナタリーの大山卓也さんがこの小沢健二のいいとも出演に際してのブッキングをしていたという話もあり、「歌ってもいいなら出る意味があるかも」ということを小沢健二本人が言っていたそうなので、やはり彼はなにより歌でタモリさんとスタッフに向けて「お疲れさまでした」を言いたかったのだろう、と。

また、ぼくはそれだけではなくって。日本を出て長い旅をしてこれからまた旅を続ける小沢健二から、ひとまず長い旅を終えるタモリに贈ったいくつかの歌は、当然そのテーマに合う楽曲が周到に選ばれていましたし、それは小沢健二タモリのふたりのことだけじゃなく、ずっと彼の歌を聞き続けてくれた人たち、いまでもコンサートに足を運んでくれる人たちみんなが歩んできたこの16年間にわたる長い旅への賛歌でもあったように、ぼくには聞こえました。

ぼくらの住むこの世界では旅に出る理由があり
誰もみな手を振ってはしばし別れる

この歌詞が示すように、この別れは「しばし」であって、いずれまたどこかで、なんらかのかたちで交わることはきっとあるだろうし、みんなその日まで、どうか元気で楽しく、それぞれの旅を生きよう!そんなメッセージだったようにぼくには思えました。
そしてなにより、彼の歌う歌が、きちんと「45歳のドアノック」になっていたことがほんとうに素晴らしかったです。



小沢健二 ぼくらが旅に出る理由 - YouTube

ENJOY KYOTOオリジナル和菓子をつくっていただいた青洋さんに行ってきました。

ENJOY KYOTO最新号の和菓子特集のなかでENJOY KYOTOオリジナルの桜の和菓子の作成にご協力いただいた青山洋子さんの和菓子店「青洋」さんへ伺ってきました。
やっぱりこうして自分たちが制作に関わったものが実際に店頭に並んで販売されているのを見るとウキウキしてきますね。早速、地元の方や常連のお客さまが購入されていかれたようでまずはひと安心。「これいらんわ」とか言われたらどうしようかと心配だったもので。まだ外国人の方はこられてないようですが、どうだろうな。来てくれるといいんだけど。

http://instagram.com/p/lyyZslMzni/
http://instagram.com/p/lyzbOYMzoS/



青山さんのお店も紹介されているENJOY KYOTOの最新号を、お店に置かせてもらったのですが、じつは青山さんは今号の表紙・巻頭特集で紹介しているだるま商店さんともお友達だそうで、いま木屋町醸造庭で開かれているだるま商店さんの個展のフライヤーも置いてあって、なかなかのコラボ感です。つながっていますね、ほんといろいろ。

http://instagram.com/p/ly2IaGszqU/
http://instagram.com/p/ly1Jy9Mzpw/



せっかくなのでわれらがオリジナル「花日和 Sakura Sky」だけでなく、3月のお菓子をいくつか買って帰りました。もちろんどれも美味しいのですが、やっぱりオリジナルの「花日和」、美味しいんですよ。というか、これだけこし餡にチョコが入っているので、他のと続けて食べると存在感が際立っていますね。「外国人の方はあんこが苦手な人が多い」というリサーチがあったので、チョコを混ぜていただいたのですが(もしかしたら日本人の和菓子好きの方にはどうかな、という感じはあるにはありますが)ぼくはコレ、すごく好きです。

http://instagram.com/p/ly5h1UszsT/



このオリジナル和菓子の制作は今年の1月の終わりころから企画が始まって、それでいろいろイメージをお伝えしてつくっていただいて、それで編集メンバーみんなで味見させていただいて決めました。名前はぼくが付けました。桜のピンクと空の青がモチーフになっているのですが、ピンクが桜なのはすぐわかるので、「空」という言葉をいかにつかわずに青の部分を表現するかがポイントでした。青い春で「青春」なんて案もあったのですが、やっぱりこう桜が咲いててうららかな鴨川と北山の空みたいなイメージがパッと浮かんで。それで「ああ、お花見日和だ」と思ったんですね。「A perfect day for Sakura」みたいな感じで。それでそのイメージをネイティブのリッチに伝えたら彼が「Sakura Sky」っていう見事な英語名をつけてくれて、もうこれで決まり!という感じでした。ほんとにいいコラボになったし、楽しい仕事ができたなあと思います。ほんとうは外国人観光客の人にこそ食べてほしいんだけど、今回限りのお菓子なので、みなさんもぜひ味わってみてください。

「花日和 Sakura sky」のお取り扱いは、今日からの3日間と、来月4月25日~27日までの3日間のみ、時間は午前11時~午後6時までです。

■和菓子店 青洋 http://wagasiseiyou.petit.cc/banana/
京都市北区紫竹西野山町54-1 (堀川北山の交差点を左折し、ずっと西へ。「紫野泉堂町」の交差点を右折、100mほど北へ上がります。美容室花さんの北隣です)