ゴジマエ~後日読み返してもらいたいささやかなまえがき~

1971年生まれ。京都府出身・在住。コピーライター・プランナー。約15年間、大阪の広告制作会社勤務ののち2012年7月からフリーランスに。キャッチコピー一発から広告全体のプランニング・進行管理、企業の販促企画(企画書作成)まで、会社案内や学校案内・フリーペーパーなどの取材からライティングまで、幅広くやってます。 お仕事の依頼などはfuwa1q71@gmail.comまで。 

京都外国語大学とのコラボを終えて

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どうも、どうも。ずいぶんとお久しぶりになってしまいました。そしてENJOY KYOTOについて書くのも、もうかなり久しぶりのことですよね。去年のお茶のシリーズの時以来ですね。岡崎体育さんの記事以来かな。ともあれ、twitterの方ではこまめにリアルタイムでぶつくさ書いているのでよかったらそっち見ていただければと思います。
さて、今回のENJOY KYOTO Issue29では、ちょっと新しいことにチャレンジしています。それはなにかというと、京都外国語大学とのコラボ企画としてイギリス・ロンドン大学からの留学生アディと、それから栗山さん、中井さん、横山さん、米虫さん4人の日本人学生と一緒に紙面を作る、という新しい試みのことなのです。

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まず2月9日にキックオフのミーティングがあり、そこから3月の初めになにをテーマに紙面を作るか?を、学生さんたちにプレゼンテーションしてもらいました。アディは街中を歩いていて誰もが目にできる「のれん」を、栗山さんは京都は夜の観光スポットが弱いという情報を得て「夜に楽しめる観光スポット」を、横山さんは「京土産、お茶と和菓子、海の京都」と多彩なテーマを、そして米虫さんはたまたまちょうどENJOY KYOTOの特集とかぶってしまった「スパイス」など、いろんな意見がその場で出されました。そこからみんなのアイデアを、ぼくや徳毛社長、朝日新聞社の高橋さん、村山先生やジェフ・バーグランド先生など京都外国語大学の先生がた、そして学生自身で議論し、最終的にアディが提案してくれた「のれん」で行くことが決まりました。

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のれんについて議論しているなかで、とくに興味深かったのは、イギリス人であるアディの目線で語るのれんです。彼女から見てのれんというのはまず「お風呂屋さん」、つまり銭湯のイメージがあるということ。ぼくなどからするとのれんといえば「のれんを守る」「のれん分け」などの言葉からイメージするように、老舗の旅館や和菓子屋さんというのが先で、どちらかというと銭湯ののれんは安っぽいというと語弊がありますが、そこまで最初に思い浮かぶものではなかったので印象に残りました。
それと、これは銭湯のイメージとも重なるのかもですが、のれんの役割として彼女は当初「目隠しや立入禁止を意味するもの」だと考えていたそうです。扉は開いていてのれんの下から店内の様子がチラッと覗いているのに、それを隠している、あるいは遮断しているように映る、つまり「入ってはいけない、見てはいけない」というサインなのだろうと考えていたというのです。なので、日本人の常識である「店の入り口にあってそこをくぐって入るもの=入口」という発想とはまったく逆のイメージで外国人に伝わっているということがわかって、これはまったく新鮮な驚きでした。そういったこともあり、この「のれん」ネタでいこうということになったのでした。

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で、3月後半から4月いっぱいをかけて、学生たちにはフィールドワークと称して京都の街で自分の目についたのれんを見つけてくることをしてもらい、みんなが街で撮ってきたのれんの写真を見ながらあらためて議論しました。そして役割分担や細かな構成内容、取材先の選定やアポどりの段取りなど、なんどもなんども打ち合わせを重ね、少しずつ肉付けをしていきます。学生サイドとしては自分たちのアイデアが具現化し、目に見える形になっていくので楽しかったでしょうが、ぼくにしてみればやるべきことが明確になるにつれ「ああ!これはけっこう大変だなあ」というのが実感されていくので、ちょっとビビっていた時期ですね(笑)。

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とまあ、ひとまずやるべきことは決まったので、まずみんなには取材先へのアポ入れを自分自身でやってもらいました。ひとまずアポどりに使うメールの定型文をぼくが作って学生にデータで渡し、それを自分たち用にアレンジして書いてもらうことにしました。それ以外にも応対にあたってのセオリー、わからないことや不測の事態があった時の対処法など、さまざまな取材時のノウハウを伝授して、実行してもらうだけでも、けっこうたいへんな作業になりました。カジュアルな雑貨屋さんなどはメールで若い店長さんがサクサク対応してくれるところもありますが、老舗の和菓子屋さんなどはウェブもメールもないところもあり直接伺って取材の趣旨を説明したり、大きな会社の場合は東京本社の許可が下りるのをハラハラ待ったりと、まあわれわれライターが経験することをね、ひととおり体験してもらったというわけです。

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それでも学生たちはみんな、とくに大きな問題も失敗も起こすことなく、ちょっとこっちが拍子抜けしてしまうくらいに、じつにうまくやり抜けてくれました。というのもじつは「失敗から学ぶ」を実践してもらえるように、責任問題が起きない程度にわざと曖昧にして失敗できる余地を残してあったのですが、その余地に学生自身が気づいて学生のほうから質問してくれたり、うまく自分の機転で埋め合わせたりしてくれて、なんとか自分たちで乗り越えてくれたので、ああいまの学生さんはつくづく優秀なのだなあと思った次第なのです。

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また今回の企画では、一部を除いてほぼすべての取材撮影に立ち会いました。紙面スペースの都合上そこまで突っ込んだ取材ができるわけではなく、書く内容も質問内容も限定的なものになることがわかっていたため「まあいざという時は自分がかわりに聞けばいい」くらいの気持ちで構えてはいたし、あえて質問シートを事前に作ってきなさいとかいった指示は出さずに、学生たちがどうするか?と見ていたのですが、みんな事前に質問をちゃんと考えてきてくれていたし、さらにはメンバーの中で一番最初に取材を担当した中井さんは「思ったより聞き出すのは難しいので質問を多めに考えておいたほうがいいよ」という具合に、取材時に感じた課題を連絡用のグループLINEでこれから取材に行く学生に向けて共有してくれたりもしました。これはオッさんにはなかった発想で、なるほどなー、ティーンネイジャーの頃からSNSスマホアプリがある世代だもんなーと思わされました。

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そして、今回の最大のトピックはなんといっても英文原稿のネイティブチェックです。アディはイギリス人なので、彼女には最初から英語で原稿を書いてもらいました。それから他の日本人の学生には、まず日本語で書いたものをぼくがチェックし、OK出たものから取材先にチェックに回します。そのうえで最終フィックスされた原稿を自分で英訳してもらい、それをうちのネイティブチェッカーであるリッチ先生がチェックするという流れで作業することにしました。
おもしろかったのは、日本在住経験の長いリッチが「まあこれならじゅうぶんかな?」といったんOK出した表現に、留学生のアディが「いやこれでは外国人観光客にはわからないのでは?」と表現を再検討したりして、リッチも「ぼくも日本人の感覚がわかりすぎるから、ちょっと甘くなっちゃう部分があるかもなあ」と笑って話していたことでした。

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ともあれ、当日来れなかった横山さんをのぞき、4人の学生とリッチとぼくとで、じつに4時間以上にわたって行われた英文チェックミーティングによって、この4ヶ月半の長きにわたって進められてきた企画の英語原稿が、いよいよ完成しました。

撮影は京都精華大学卒業生の写真家・平居紗季ちゃんが担当してくれました。直前までスケジュールが決まらないこともあるなか、のべにして合計12日もの出動というムリをお願いしたのですが、快く引き受けてくれ、とても助かりました。

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また、デザインはうちの奥さんが担当しています。「文字が多いっ!」とデザイナーらしくブツクサ言っていましたが、最後は手書き文字などを活かして楽しくまとめてくれて感謝です。

取材先も多いし、学生さんに指導しながらの作業で、かつカメラやデザインなどもENJOY KYOTOのコアメンバーではない人たちなので、指示も細かくしないといけなかったりで、実際にはわずか1ページではあるものの作業量としては6ページ分以上くらいの労力を使いました。でも、たくさんの人たちと関わりながら紙面づくりができたことはとてもいい経験でした。ちょっと学祭っぽくってテンションが上がってる自分もいました。ものづくりの基本はこうだよなあという感じも、ちょっと思い出したりしました。

そして、それぞれの取材先に対して学生自身でそれぞれ納品にも行ってもらいました。「お店のかたにもすごく喜んでもらえた」という報告もすでに届けてくれました。自分で選んだ取材先に自分でアポを入れて、自分で質問を考え、取材をして、訂正のやり取りを経て、最後に自ら納品に行く。そこで感想を聞く。ここまでがライターの仕事だとぼくは思っているので、それをそのまま体験してもらえて、ぼくもうれしかったです。それになにしろここで紹介したお店の情報はネットで拾えても、そのお店ごとののれんの由来をここまで書いた情報は、たぶん他にはないです。だから胸を張って自分の仕事だと言っていいものにはなっていると思います。本当はもっと深く掘り下げたかったですけどねー。

それで、最後にブログタイトルにふさわしく「まえがき」ぽいことを書きます。

いまぼくは個人的に京都造形芸術大学の空間デザイン・コースで准教授の酒井洋輔さんやHanao Shoesを作った学生たちと一緒に、とあるプロジェクトを進めていたりもしています。
今回の京都外国語大学のコラボをきっかけに、たとえばいつかENJOY KYOTO内にそういう「大学生が大学の垣根を超えて協働できるプロジェクトチーム」を立ち上げ、外国語に強い学生、文化・芸術・デザインが得意な学生、テクノロジー・IT系に強い学生、産業政策に強い学生たちがそれぞれの研究分野を生かしながら、横断的にプロジェクトを企画立案し、事業として起業する「スタートアップ・スタジオ」みたいなものができたら面白いなあ、なんてことも考えたりしました。
いつかそんなプロジェクトが動き出したら、またここで報告したいと思います。

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