ゴジマエ~後日読み返してもらいたいささやかなまえがき~

1971年生まれ。京都府出身・在住。コピーライター・プランナー。約15年間、大阪の広告制作会社勤務ののち2012年7月からフリーランスに。キャッチコピー一発から広告全体のプランニング・進行管理、企業の販促企画(企画書作成)まで、会社案内や学校案内・フリーペーパーなどの取材からライティングまで、幅広くやってます。 お仕事の依頼などはfuwa1q71@gmail.comまで。 

奇跡 くるりへの取材

f:id:fu-wa:20140905120734j:plain

外国人向け観光フリーペーパーのENJOY KYOTO9月号を「くるりと音博」を中心に京都の音楽ネタでいこうとぼくが言ったのはじつは3月の初めごろ。もう半年も前のことでした。きっかけは3月にメルボルンに行ったときに「あ!」と気づいたことがあった。それは、海外旅行者が異国に地に降り立って、まず空港のアナウンスとか、街の人がおしゃべりする聞き慣れない当地の言語にはじまり、教会の鐘の音、日本とは違うパトカーのサイレンやクラクションの音などなど、まるでそれまで忘れていた野生の感覚を取り戻すみたいに、無意識のうちに耳からの情報に注意が向けられるように感じられるということに、ふと気づいたんですね。

あと、旅から帰って自宅のベッドに沈み込んで目を閉じたとき、ふとフラッシュバックしてくるのは、出会った人々の顔でもなければ、絵葉書のように美しい観光地の風景でもなく、やはりその街の「音」だったりすることがけっこうあります。それはまるで、日本では耳をふさいで生活していたのかとさえ思いたくなるほど、「音」が鮮やかに感じられる、とくに海外の旅先では聴覚が研ぎ澄まされる、という点に気づいたことが、この企画のスタートラインだったんです。

いっぽうで、従来のメディアや行政主体の海外向けの観光PRというもののなかに「音」「音楽」という視点がわりとすっぽり抜け落ちているんじゃないかなという事実に辿り着いた。そこで、「京都」「街の音」「市民」「生活」「音楽」「歌」「参加する観光」といったキーワードを並べてみたとき、もっともふさわしいのが「京都音楽博覧会」だと直感した、というわけです。

そこで早速あらためて音博のサイトを見てみると、そのなかでちょうど岸田さんは音博について「文化と芸術、そして国際交流の街、京都。そんな街並みにふさわしい素敵な音楽博覧会をめざします」と語っていらっしゃいました。佐藤さんも「世界の音楽の博覧会をくるりの地元である京都で開催するというのが音博のスタートからの理念」とおっしゃっていました。さらに公式ウェブサイトの主催者あいさつの最後は「新しい音楽文化をこの京都の街から世界に向け発信し、参加していただく全ての人と一緒に愉しむ一日にしたいと思います」と記されています。
なんだ、さっき並べたキーワードとほとんど一致するじゃないか!これはもうやるしかない!そんな感じだった。そして、こういうときはわりとミラクルが起きるもので、準備をしていくうちにそれは実際に起きていくわけです。

まずENJOY KYOTOではもともと、歴史的文化遺産やいわゆる名所・観光地だけではない、過去と未来につながる文化、街をつくっている市民ひとりひとりのなかに息づく京都らしさ、現代的な生活スタイルの中にあっても、それでもどうしても染みだしてくる普遍的な慣習やカルチャーを紹介し、京都の独自性の中から逆に世界との共通点を見いだしたいと考えてきました。またSNSなども使いながら、京都で世界のいろんな人たちが友達になれるメディアを作ろうというテーマを掲げています(このあたりはまだまだこれからです)。

伝統をありがたがるだけじゃなく、コンテンポラリーな同時代性の中に、遠い未来や過去を見出していくことも、ある意味で京都らしさではないかなあと。ある意味これはとても京都的な時間の感覚かもしれないけど、たとえば千年後(!)もしかしたら音博も、いずれは祇園祭や五山の送り火のように、秋の初めに行われる伝統的な京都のお祭りとして海外の観光客が訪れるイベントになっているかもしれないわけです。ぼくらはいま、その黎明期を見ているのかもしれない。しかもちょうど今年の音博はレバノンやアルゼンチンなど例年以上に多様な国の音楽家が集まることが決まっていました。そんなことも、なんとなく導かれたような感じもして、いまENJOY KYOTOで取り上げなくてどうするんだっていう思いが日に日に大きくなっていったのでした。

とはいえ、ギャラも出せない無名のフリーペーパーで、個人的つてもなく、どうやってブッキングすればよいかと、いろんな人を介してお願いしようとしては見たものの、当然なかなかかんたんにはいかず、そこまでにけっこう時間がかかってしまいました。結局6月に入ってようやくアポが取れ、22日の誓願寺の公開収録の合間に時間が取ってもらえそう、というニュースが飛び込んできて、いやあそれはもうすごくうれしかった。

と同時に、本当にインタビューが実現できるかどうかわからなかったから、その時点ではまだ綿密に自分のなかで撮影のイメージが練れていなかったので「これは困った」というのも反面ありました。お寺でやると決まったのは撮影のほぼ10日ほど前のことでしたから、けっこうプレッシャーはありましたね。おまけに前回も書いたように事前の打ち合わせもなにもない完全なぶっつけなので、なにをどこまでやっていただけるのかも、正直その日にご説明してからみたいな状態でした。でもなんていうか、もう逆にここまできたら開き直るしかないというか、こっちもそれなりに修羅場はくぐって来てるので、イザとなったらなんとかなろうだろうと。ひさしぶりに緊張感を楽しむ感じでもって臨める撮影になりました。

でも撮影当日、結果的には幸いなことにこちらがイメージしていた撮影に対し、くるりさんサイドも快く承諾いただけて、手前味噌ですけど冒頭で掲げたようなホントに素晴らしい紙面になっています。インタビューも掲載していない話もたくさんあって、ひとつひとつが楽しくも意義深いお話しばかりでした。あれ、どっかで全文掲載とかできないかなあと思うくらい、すごい楽しいインタビューになりました。この場を借りて、くるりの皆さん、それからマネージャーさん、あとこの誓願寺での公開録音イベントの合間をお邪魔してわれわれの取材撮影が終わるまで待っていただいたFM802の関係者の皆さまにも感謝の意を述べたいと思います。ありがとうございました。

世の中ではこのところ音楽が売れないとかっていわれていて、いろいろぼくも考えるとことがありました。小学校1年生の時に入院した際に、ラジオで高島忠夫の全国歌謡ベストテンを毎週聴いてて、そこからゴダイゴとかツイストとかいわゆるポップスが好きになって、それから中学生高校生の時は、いちばん音楽を聞いた時代だった。当時はアナログレコードで、レコード屋さんで買ってきたレコードの封を切ると塩化ビニールの独特のツンと来る匂いがして、ジャケットの紙もまだ印刷したての紙とインクが放つ匂いがしてて。それで当時はまだネットなんてなかったですから、針を落とす瞬間までどんな音楽かまったくわからない。好きなアーティストでも新しいアルバムでまったく違う音楽に取り組んでいたりすることがあるから、針を落として最初の一音がバッと鳴る時の、あの感動とかワクワク感とかが、ほんとうにいまでも忘れられない。だからそんなふうに、少年時代はほんとうに音楽に救われたようなところはあるんで、恩返しじゃないけど、なにか出来たらという思いも、ちょっとあったりもしました。

ちょっとだけ偉そうに言わせてもらうと、たぶん音楽の聴かれ方が変わっていることに、きっとまだ業界がついていけてないだけで、お金を出しても聞きたい音楽というのは、くるりをはじめ、まだまだちゃんと今後も聴かれていくとぼくは思っています。その環境が変わればまた、音楽はむしろこれまで以上に聴かれていくんだろうと、ぼくはどこかで思っています。今回の「観光と音楽」というのも、ひとつそういう取り組みとしてヒントになるかなあという思いもありました。しかもちょうど、くるりの皆さんは、ちょうどマネジメントも自分たちでやられるようになられたばかりで、ほかにもハイレゾ音源の配信とか、いろいろと新しいチャレンジをされています。だから、まったくの偶然なんですけど、そういういくつもの重なる思いがあって、今回の取材につながりました。

ほんとうにあらためて、くるりの皆さんありがとうございました。もうすぐ音博(京都音楽博覧会2014 in 梅小路公園)です。そしてその前には話題の新譜(くるり ニューアルバム「THE PIER」特設サイト)も発売になります。たぶんこのアルバムはぼくにとって、小学生のころ学校から帰ると実家の近所にあったレコード店「イケガミ」にマイケルジャクソンの「スリラー」やYMOの「浮気なぼくら」を買いに走り、家に帰って針を落としたあの日の夕方のような、ワクワクとドキドキがよみがえる、そしてきっと長く聴くことになる大切なアルバムになるんだろうなあと、いまから楽しみでしょうがないんだよなあ。


くるり Liberty&Gravity / Quruli Liberty&Gravity - YouTube



Quruli - Kiseki (Live) - YouTube