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ゴジマエ~後日読み返してもらいたいささやかなまえがき~

1971年生まれ。京都府出身・在住。コピーライター・プランナー。約15年間、大阪の広告制作会社勤務ののち2012年7月からフリーランスに。キャッチコピー一発から広告全体のプランニング・進行管理、企業の販促企画(企画書作成)まで、会社案内や学校案内・フリーペーパーなどの取材からライティングまで、幅広くやってます。 お仕事の依頼などはfuwa1q71@gmail.comまで。 

大宮エリー「思いを伝えるということ展」初日トークイベントに行ってきました

どうして人は、思いを伝えるのだろう。

どうして人は、思いを伝えないのだろう。

 

こんなことばではじまる「思いを伝えるということ」の著者・大宮エリーさんの個展「思いを伝えるということ展」に行ってきました。初日ということでゲストにつじあやのさんを迎えてのトークショーが催され、デビュー以来のつじあやのファンであるぼくとしては正直こっちがメインかなってくらいのつもりでフラッと行ったのですが、いや展示がほんとにすばらしかったです。「ことばを展示する」というのはかつて「ことばの展覧会」というのがありましたけど、これだけの長文を展示するというのはほんとうに異例だしチャレンジングだなあと思いました。そしてなにしろ、エリーさんのトークがおもしろいのなんの。ほんとうに親密でやさしい、そして笑えるイベントでした。

もちろん笑うだけじゃなく、ぼくも一応ことばを生業にしている人間のはしくれとして、そしてエリーさんと同じコピーライターとして、ことばで伝えることのよろこびと、届かなさへのいらだちや焦燥と向き合い取り組んできたものとして、ずしんと胸にささる「ことば」がたくさんありました。

で、冒頭の二行に戻るのですけど、ぼくはこの二行目のすごさにまずハッとするんですね。最初の一行があって、で、すぐその後で「伝えない」わけを問う。ここにドキッとするのです。なぜか。それはやはり多くの思いはほんとうは伝えられないままで、そのまま消えていくことの方が圧倒的に多いからです。言えなかったサヨナラや、言いだせなかったごめんなさいなど。そのひとの人生とともにその伝えられなかった思いは、ことばは、決して実を結ぶことのないまま宇宙の闇へと消えてふたたび光を浴びることはないだろう。その悔しさ。その悲しさ。その切なさ。そこに思いをしっかりと向けられる人。そこからなにかを手につかみ、やはり次はそれを届けたいと思える人。そういう経験、そういうプロセスを経たからこそ「思いを伝えるということ」は生まれたのだなあと、エリーさんの、その「ことば」のはしばしに(もうそりゃあ軽妙洒脱に面白トークをくりだすんですけど)「ことばへの信頼」「伝えたいことがあるんだ」というメッセージがつたわってくるのでした。

よくあるはやり歌の歌詞やそれこそ巷にあふれるキャッチコピー、それからメディアにのっかってくるフレーズやなんかは、「思いを伝えよう」「思いは伝わる」とあっけらかんと言っちゃうんですね。すごくあっさりと。でもほんとにそうなのかな?とぼくなんかは疑うのです。ふだん人はほんとにそんなにことばを意識しているのだろうか?ぼくは仕事だからことばを信じているし、最後はことばなんだと、そういう思いのなかでこの仕事に取り組んでいるところがあります。でもなんとなく届かないんじゃないか?という思いがいつもあるのですね。「こんな長い文章をいまどきだれも読まないですよ」と多くのディレクターはいいます。「もっと短く、わかりやすく」「インパクトないなあ」「うーんやっぱ絵がないとなあ」などなど。もうだれもことばなんて必要としていなんじゃないかと思う場面にしばしば出くわします。だれもじぶんのことばなんか読んでいないんじゃないかと。

でもそんなプロセスがあったればこそ、やっぱりこのしごとを続けているんだなと思います。「男は黙って」みたいな、それはそれでかっこいいんですけど、でも。伝えないことがメッセージみたいなコミュニケーションってとっても日本的だとは思うし、それはそれで美徳みたいなこともあるにはあるんだろうけども。でもぼくはやっぱり思いを伝えることを、ことばで伝えるということを、これからも続けていきたいし、そのことにある種ストイックに取り組んでいきたいとあらためて思いました。

途中、つじあやのさんが今日のテーマと合うかなということで選んだという曲「真夜中の散歩道」をウクレレの弾き語りで歌ってくれました。そこであやのさんが言ってたのは「自分の歌も伝えられないままの歌が多いんですよね」ってこと。

 

怖い気もするけれど あなたに聞きたいな

たとえば私をどう思うかなんて

言えるわけないじゃない ぜんぜん会話にないし

だけどいつの日か胸が苦しくて 涙がうっかり頬にこぼれたら

あなたは私をそっと抱きしめて 微笑んでくれるの

 

夕暮れを模したダウンライトの灯りのもとで歌われる言い出せなかった思い。そんな歌を聴きながら、かつて若かったころの自分の記憶、女の子と坂道を自転車を押しながら歩いた夕暮れの帰り道や、夏の夜に星空を見ながらたぶんもう会うことはないのかなとひそかに思っていたことなどを思い出していました。

とにかく誰彼となく話がしたくなる展示です。そしてある特定の誰かに手紙を書きたくなる展示です。元気が出ます。そしてたぶんちょっとだけ勇気も。ぜひ足を運んでみてください。もしかしたらかつて伝えられなかったいくつかの言葉を、伝えるきっかけになるかもしれません。

 

大宮エリー「思いを伝えるということ展」は10月28日まで。

場所はFOILギャラリーです。

http://www.foiltokyo.com/gallery/exhibitions.html