ゴジマエ~後日読み返してもらいたいささやかなまえがき~

1971年生まれ。京都府出身・在住。コピーライター・プランナー。約15年間、大阪の広告制作会社勤務ののち2012年7月からフリーランスに。キャッチコピー一発から広告全体のプランニング・進行管理、企業の販促企画(企画書作成)まで、会社案内や学校案内・フリーペーパーなどの取材からライティングまで、幅広くやってます。 お仕事の依頼などはfuwa1q71@gmail.comまで。 

ENJOY KYOTO Issue22 宇治特集号をセルフレビューします 〜その3〜 「通圓 宇治茶サーガの最新章」

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京阪宇治線の終着駅、モダンな建築がどことなく街並みから浮いている不思議な雰囲気の宇治駅を降りると、駅を出てすぐにUの字型のバスターミナルがある。ターミナル右手の宇治川沿いを歩いていくとすぐ目の前、宇治橋のたもとに通圓さんはあります。通圓さんを知らない人でも、京阪宇治駅で降りたことがある人なら一度は必ず目にしているはず。「ああ、あそこねー」という感じ。そうです。あのお店です。
通圓さんといえば、ぼくが子供の頃に茶団子をよく買って帰った思い出があります。いろいろ食べたけど、ここで買う茶団子がいちばん美味しかったからです。さすがに子ども時代に自分のお小遣いで玉露を買うほどマニアックではなかったけれど、いずれにしても今回の取材で一貫しているのは自分が子どもの頃に何かしらの形で通過している場所や、体験しているもの。そういう(それこそガイドブック的ではない)地肉となった知識や背景を共有している相手を取材先として選んでいることがあげられると思います。


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通圓さんの創業は1160年ですから、なんたっていまからおよそ850年前。平安時代の後期です。ちなみに1160年ごろの京都というのは日本初の武家政権が誕生し、平清盛が権勢を振るっていた時代です。平治の乱が起きたり、源頼朝が伊豆に流されたりしています。海外ではパリのノートルダム大聖堂がようやく着工というくらいの頃です。京都に老舗は数多くあれど、ここまで古いというのはちょっとやそっとではなかなかお目にかかれないですよね。で、今回はその24代目にあたる通円祐介さんを取材しました。祐介さん自身は若くてハンサムで、そんな長い歴史を持った老舗茶店のご当主という重々しい雰囲気はなく、物腰の柔らかいお兄さんといった感じのかた。朝日焼の記事執筆をお願いしたライターの高橋マキさんともお知り合いだったし、今回の号の他の取材先さんのリストを見ながら「みんな知り合いばっかりですね」と笑ってお話されてて終始フレンドリーな雰囲気で取材は進みました。

さて、ぼくは祐介さんからお話を伺って、さあ原稿を書こうとなった時に、まず最初にメインタイトルをどうするかを考えました。これは同時に記事全体のテーマともなるわけですから、ここがバシッと決まらないと原稿は凡庸なものになります。これはいつもそうしていることですが、ただただ聞いた話を順を追って書いたり、とおりいっぺんのことをさらっても、読者が積極的に読み進めたいと思うような記事にはなりません。だからぼくは必ず最初に主題を探します。それは「問い」を探すことでもあるわけです。そして主題はいわば道のようなものです。ここを通っていきましょうという道ですね。そしてそれは取材する前の時点からあらかじめ見当をつけておきます。資料をあたり、ざっと目を通し、主題となりそうなポイントを見つけておくわけです。現場ではそれに沿ってインタビューを行い、面白い話が出てくればそこを突っ込みます。いい話が出てくればさらにそこから記憶の抽斗を開けてもらうよう促します。

こうして事前にあたった資料には出てこない話(第一次情報)や、主題をより深掘りできる興味深い話が見つかれば、大抵それをテーマとしたタイトルを書きます。いわばキャッチコピーですね。これが決まったら、その主題とトーンに沿って、まずは荒書きとして第一稿をひと筆書きの感じでラフに一気に書いてしまいます。この時はほとんど文字数とか年代や名前の間違いとか文字統一とか細かいことは一切気にしません。とにかく一気に書く。主題と文体とリズム。それだけに意識を集中させて文章の海の中に埋没していく感じで書き上げます。それからその原稿をひと晩かふた晩寝かせて、今度は自分の文章と距離を取り、冷静な頭で読み直し、文字数やトーン、主題からブレたところなどをチェックして手を加えていきます。たいていは量を書きすぎるので大幅に削ることになります。
こういう仕事の仕方はハッキリいって効率的ではないし、時間も手間も尋常ではなくかかります。でもそうしているからこそ、ENJOY KYOTOの原稿は出来上がっているのです。いまここで書いてるようなブログの文章とは、質も時間のかけ方も全く異なるわけです。

さて、通圓さんの原稿の主題。これはだいたい取材前から目星をつけていたことなのですが、これは「宇治茶をめぐる通円家のサーガ」であると位置づけました。具体的なタイトルは「850 years of deep green 〜The epic history of Tuen's Uji-cha〜」。このタイトル、じつは日本語の段階では「850年の、深み」とだけ記しておいてあえて意図を説明しなかったんですが、翻訳を担当してくれている川元さんというとてつもなく英語力の高い女性が「deep green」というコピーの意図を、まさに阿吽の呼吸できっちり英訳してくれたのですごく嬉しかったです。ネイティブ監修のリッチもそのままこのタイトルを活かしてくれました。
あと、取材の順番でいうと通圓さんが最初だったのですが、書き始めた時点ではほとんどの取材が終わっていて、その段階で僕の中に「宇治川」というのが今号を通す隠れテーマになっていることを感じていました。いわば通奏低音のように、この宇治川の水がすべての記事のなかを滔々と流れています(表紙で数ある源氏物語宇治十帖の絵の題材の中から宇治川の入った題材「浮舟」にしたのもそのためです)。とまあ、ここまで決まれば、じつは書くのはかんたんです。逆にいえばこういう主題と物語を運ぶためのビークルを見つけるのは容易なことではありません。


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では記事の流れを、順を追って見ていきましょう。まず通圓さんの歴史は宇治川橋守としてスタートしています。それが1160年。初代が源頼政に命じられて始めたということです。橋守というのは、京都と奈良をつなぐ宇治橋を管理し、台風や豪雨の際には橋が流されるのを防ぐなどの役割を担ういわば番人のような仕事。その後、次第に宇治橋を通る人々に茶を点て、提供し始めたことで「茶飲み処」としても知られるようになったのだということです。
もともと宇治川の水は、茶を点てるのに適しているらしく、なかでもとりわけ「三の間」と呼ばれるところ、あの宇治橋の橋脚が出っ張っているところですね、そのあたりはちょうど川底から湧き出ている地下水と、上流の岩に磨かれてまろやかになった川水とが混じり合う場所であるらしいんです。それであの豊臣秀吉がですね、宇治に来訪した際に通圓さんでお茶を飲み、たいそう気に入ったため「三の間で汲んだ水で茶を点てるように」と、茶人として有名な千利休に命じ、専用の釣瓶を作らせたというわけです。で、その釣瓶はいまも通圓の店に受け継がれていて、いまも店頭で目にすることができます。けっこうフランクに置いてあります(笑)。
お店には他にも「一休さん」として親しまれている一休宗純という僧侶が当時親交のあった7代目のために残した句や木像が残されていますし、狂言にも「通圓」というタイトルの演目が存在しています。
それから長い歳月が流れた19世紀後半、明治維新とその後の近代化によってこの橋守の仕事は失われ、茶舗としての通圓の歴史が再スタートするわけです。まあ恐らくは現存する中で日本でいちばん古いカフェといってもいいんじゃないかと思うのですけど、こうして見てもお分りいただけるように、ここまで出てくるトピックや登場人物がいちいち歴史の教科書に名を残すようなものばかりなわけです。それがこの通円家というひとつの家族の歴史であるということに、なんかもうすごく驚くわけですね。で、いままだなお更新されている連載小説の、その最新章に出てくる登場人物とですね、こうやってお話をしているわけです。つくづく、京都の、そして宇治の凄みを感じてしまうわけなんです。この素直な驚きが、今回の原稿の主題をサーガとしようと思ったゆえんです。

さて、サーガを締めくくるにあたって、歴史や過去だけでなくこれからのことも書いています。たとえば、大学時代はDJとしてメトロでイベントなども主催されていたという祐介さんは、子供の頃から家を継ぐことに疑問を持ったことはなかったそうです。「というか、どの家の子も大人になったらみんな家の仕事を継ぐものだと思っていた」と話してくれました。小さい頃からお店のスタッフからも「24代目」と呼ばれていたそうですから、なおさらかもしれません。そしてプレッシャーは感じてないというよりは感じないようにしているとおっしゃっていました。確かにこれだけ名前と歴史のあるお店の跡取りとなると、考えただけで重圧に押しつぶされそうになるかもしれません。だからこそむしろ日々をあたりまえに営む。そのことの大切さをご存知なのかもしれないと話をしていて感じました。そもそもお煎茶というのもそういう日常の茶の間にあったものだったわけだし。

そうして。1981年生まれの35歳でお子さんもいらっしゃる祐介さんは、否が応でも次世代のことを考える時期にさしかかるわけです。23代目であるお父様がそうであったように、祐介さんも息子に後継をやって欲しいとは言わないと断言されていました。継ぎたいと思う環境を作ること。そのためにはいまある先代から受け継いできた財産をそのまま残すのではなく、少しでも多く増やして伝えたいと考えているのだそうです。外国人のお客さんから学ぶこと、若いお客さんからのニーズに応えること。そうした積み重ねが新しいスタイルとして24代目の歴史を作る。それを見た子どもたちは自然に興味や新金貨を持ち、自分ならもっとこんなことができる、こんな風にしたいと感じるはずだろう。そういう自然な形で家業に関心を持ってもらいたい。そんな思いがあるのかもしれないなあと感じました。しかも祐介さんは新しいことだけでなく、逆に昔ながらの製法でつくられたお茶を昔ながらの飲み方で飲むことを復活させるような取り組みにも興味を持っているということです。まさに「宇治茶ルネサンス」といえるようなことが始まることになるかもしれないわけです。

いずれにしても近代化と西洋化で日常の生活から急須で煎茶を飲むニーズが減少する昨今、宇治茶はいま大きな節目にあると思います。いままでもいろんな時代の変化やニーズの変遷、それによる好機も危機もあったろうと思いますが、このいまの節目をどう捉え、次へと繋いでいくのか。自らの子どもたちや、次世代の人たちに何を伝えられるのか?こうしたことは少なからず自分も父親としてふだん考えていることではありますが、それを生活の営みとしてだけでなく、家業としても、そして宇治の歴史とも重なりながら紡がれていく。とてつもなくスケールの大きな家族史。穏やかでにこやかな祐介さんの中に流れる、巨大な物語を感じてもらえればと思います。

ENJOY KYOTO Issue22 宇治特集号をセルフレビューします 〜その2〜 「朝日焼 作為しない作為という極意について」

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さて、ENJOY KYOTO初のエリア特集として宇治をフィーチャーするにあたって最初に考えたことは、巻頭を飾る特集を何にするかということでした。個人的に知っているところや既に評価の定まったさまざまなお茶にまつわる人々だけでもかなりの候補があり、選考には編集部のメンバーはもちろん、お茶の京都に関わっていらっしゃる京都府や京都コンベンションビューローの方々のご意見なんかにも耳を傾けながら、最終的にはぼく自身の判断で決定しました。
まず今回の巻頭特集では通常6ページを割いているところを4ページに縮小、代わりにより多くの人々を2ページ単位で紹介していくという構成にしました。結果的にはこれは成功したと思います。

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そして、今回ぼくが巻頭特集としてピックアップしたのは、宇治に残る唯一の窯元である朝日焼 京都・宇治の茶陶 遠州七窯でした。昨年、ご長男の松林佑典さんが十六世・豊斎を襲名されたばかりということでタイムリーでもあったし、宇治だからといって最初っからお茶ということではなく、お茶を飲む器というのもENJOY KYOTOらしくっていいかなと思ったからでした。
早速、メールで趣旨などをご説明して交渉していたのですが佑典さんはちょうど3月はミラノサローネのご準備で、4月もそのミラノサローネ出席のためミラノに行かれるということでお忙しく、取材が4月の10日以降になると言われてしまいました。入稿は24日。ほぼ2週間しかなく、編集部では諦めようかという声も出ていました。

しかも、じつはこのページの原稿執筆は高橋マキ (@maki_gru2) | Twitterにお願いすることにしていました。外部のライターさんを迎えて、取材から原稿執筆までをお願いするのはENJOY KYOTOとしては初めての試み。と同時に、ぼくとしてもディレクターに徹し、取材には行くのに記事を書かないというのは同じく初の試みでした。そのページで異例の遅いスタート。これはもう無理かもしれない。そう思っていた時にマキさんから「弟の俊幸さんに先にお話聞けへんかなあ」というお話が。え?すみません、どういうことですか?こちらの勉強不足でマキさんに聞いて初めて知ったのですが、松林佑典さんに弟さんがいらっしゃるとのこと。ぼくとしてはその提案に「そうしましょう!」と即決。事前に大まかなストーリーやご用意いただくものなどを俊幸さんと詰めた上で、あらためて10日に取材撮影を行うことにしたらどうか。うん。これなら、なんとかなるかも。それでアプローチしましょうと伝えると、マキさんからのさらなるご提案。「どうせならお二人に出てもらいませんか?」。

じつは朝日焼と高橋マキさんとのあいだには不思議な縁があったようです。もともとマキさんは弟の俊幸さんと懇意にされていたそうなのですが、GO ONなどにも参加されメディアでも取り上げられる機会の多いご長男の佑典さんと、お父様で先代の十五世・松林豊斎さんと3人揃って取材をしようと、そんなお話をされていた矢先に2015年にお父様がご逝去されたため、その企画はお蔵入りしてしまっていた、ということが過去にあったのだそうです。そこで。今回の取材は期せずして実現した兄弟インタビュー。ある意味で弔いの物語でありレクイエム。そして朝日焼きの記事は数多くあれど、ご兄弟での登場というのは、けっこう貴重なことだとお二人も取材の際にお話しされていました。なんだか知らぬ間にピンチがチャンスになるパターンで、スルスルと良い企画になる期待が高まる展開で進んでいったのでした。


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水。井戸から汲み上げている。土地の恵みをたっぷり含んだ水。命を生み出す水。


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土。近くの山から掘りだす。50年前のものだそうで、長い年月寝かさなければならないのだそうだ。当然、50年後に使うための土をいま掘り出して置いておくわけだ。


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木。薪をくべて火を熾す。生命誕生を煽る焔。その源。


さて、朝日焼十六世・豊斎を襲名され、ミラノから帰国されたばかりのお兄さん佑典さんの帰りを待って行われた取材。「これが登り窯です」といって案内されたのですがその大きさにまず圧倒されました。とにかくすごい威圧感。男の子なら絶対魅了されてしまうようなワクワク感でいっぱいです。宮崎アニメに登場する大きな機械といった趣。むかしの人が作った最新型の装置。「火を入れると生き物みたいになりますよ」。弟の俊幸さんがそう話してくれたのですが、まさにそんな感じ。土と水に火が加わって形となる器という命をこの世に産み落とす子宮のような存在なのかもしれない。


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登り窯。実際にここに立つとものすごい存在感と生命力。先々代の十四世・豊斎がご自身で設計し作ったというから驚き。


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薪をくべていくための穴。


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窯の中の状態を見るための覗き穴。


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窯の内部。暗くてわかりづらいけど命を宿す場所としての侵すべからざる神聖さを感じました。


今回ぼくが(自ら書くことを想定せず聞き役に徹して伺った)インタビューの中でもとくに個人的に印象に強く残ったのは、お父様が亡くなる直前にご自身「最後の窯かな」との覚悟で臨まれた作品の話。最後とわかって挑む作品がどんなものになるのか?息子の佑典さんが強い関心を抱いていたのですが、出来上がった作品は結局のところ、まったくのふだんどおりの作品だったという。「作為しないという作為」というお父様の哲学がそこにもきちんと表現されていたというお話。さすがにこれはもう参った、という感じでした。おそらくそれこそが、お父様から次世を継ぐ息子への最後のメッセージだったのだろうなあと、父になった自分としてはそう読み取れたわけです。

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もうひとつ興味深かったのは、これまではある程度までは自由にのびのびと自分らしさを追究し、たとえばGOONなどでも現代のデザイナーとコラボすることも多かった佑典さんが、十六世を襲名したことによって、あらためて朝日焼らしさを探求し始めたという話。ふつうならまず型を学び、それを極めた上でこんどは自分の作風を築き上げていくものだと思うのですが、ある意味ではその逆。継ぐ前はそれなりに自由にやらせてもらっていたが、世継ぎとなったからにはやはり伝統ある窯元としての仕事をあらためて追究していきたいというお話。お客様は当然にして「朝日焼らしい」イメージの器を求めて来られる。その思いに応える責任を、佑典さんが負ったということではないかなと感じました。そして、だからこそあのお父様の最期の窯、まったくのふだんどおりに作為なく焼いたということの事実とその意味が、ぼくにはより強いメッセージとして思い起こされるのでした。

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佑典さんのイタリア出張、高橋マキさんとのご縁、そういう偶然がいくつか重なって、思いがけないかたちで実現した兄弟インタビュー。これらはいま思うと最初っから誰かが仕組んでいたかのように感じます。すごく細い糸の上を歩くように、小さな可能性を手繰り寄せるように、でも確実にこの成果へと導いていきました。これもまた「作為しない作為」の流れの中で生み出されたひとつの器である、というような大切な仕事のひとつとなりました。

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ネイティブ監修のリッチと、ライターの高橋マキさん。ひとつひとつ言葉を定めていく「楽しい校正」作業のひとコマ。

ENJOY KYOTO Issue22 宇治特集号をセルフレビューします 〜その1〜

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今回はENJOY KYOTO初めてのエリア特集号として宇治をピックアップしました。なにせ新茶の季節でもありますし、今回取り上げたあがた祭りや、紙面では紹介できなかった三室戸寺のあじさい祭りなど、イベントもあります。そしてなにより、じつはぼくが小中高を過ごした青春の街でもあるわけです。
ちなみに実家は京阪の木幡駅のすぐ近くにあって、いまもそこで両親は暮らしています。小学校は岡屋小学校で中学は木幡中学(いわゆるコワチュウ)、そして高校は東宇治高校です。ちなみに安田美沙子さんは小学校と高校が、坂下千里子さんは中学と高校が同じ。しかも坂下千里子さんは弟と学年が同じなので弟の卒業アルバムにはそのお写真があったりします。

宇治というとお茶畑をイメージしますが、自分が宇治に引っ越してきてからというもの、遊び場だったお茶畑や田んぼが次々と空き地になり(空き地でまだ遊んでた)空き地に土がうずたかく積まれ(その土を滑ったりして遊んでた。しつこい)、そしてやがて土がならされてそこに家が建つ、ということを繰り返し見せつけられた記憶があります。時代は70年代末から80年代。高度経済成長からバブルへと向かう時期で、ジャパンアズナンバーワンとか不動産バブルとかそういう時代でした。
宇治という街は、住宅はたくさんあるものの遊ぶ場所はなく、ちょっとやんちゃな中学生はみんなこぞって六地蔵の桜木という有名なゲームセンターに行っていました。カツアゲされんようにとかいってちょっとビビりながらね(いまどきカツアゲとか言わへんのやろなあ)。同じ頃、京都市内にはアヴァンティやビブレといったファッションビルができ始めた頃で、京都市内に行くのはちょっと構えるというか、郊外のベッドタウンに住む田舎者としては、当時はまだ大手筋より向こうは別世界な時代だったんですよね。その辺の話もおいおい書きます。

さて、そんなこともあってなかなかに思いのこもった、力作になったと自負しております今回の宇治特集号。そうまさにこれはお仕事ではなく、作品と言ってもいいと思っています。そこで今回は特別に、このENJOY KYOTO Issue22 宇治特集号をセルフレビューしていきます。

まずは表紙。この絵は「源氏絵鑑帖 五十一巻 浮舟の巻」という絵で、土佐光則によると伝えられているものだそうです。源氏物語ミュージアムにお願いして提供いただいたものです。今回そのお願いをするために実際に源氏物語ミュージアムに足を運んだのですが、古典や宇治の地理に少しでも知識がある人だったら、けっこう楽しめると思います。はっきりいってエンターテインメントを求めて行くと拍子抜けするかもですが、まあそもそもがミュージアムですからね。今回ぼくもあらためてこの宇治特集号にあたって取材をしたことで宇治の魅力を再発見したり、宇治の郷土史なんかを個人的に研究してみたいなあと思ったのですが、小中学生の社会見学としてはいいんじゃないでしょうか。そういえばぼく自身、巨椋池干拓の歴史とか小学校で勉強したなあ。ああいうのって、案外いまでもちょっと覚えています。

表紙は宇治を象徴するものとして宇治橋やお茶の葉や抹茶と器のイメージフォト風などいろいろ考えたのですが、どうもしっくりこなかったんですね。ありていな割に、今回掲載するコンテンツ全体に通底するコンセプトにはなり得ないなあと。じゃあ、なんだろう?とあらためて考えた時に、すべてに共通する話としては宇治川なんだということに気づきました。朝日焼の器も、宇治橋橋守からお茶屋さんになった通圓さんも、木幡の松北園さんも、茶農家の辻喜さんも、藤原家にゆかりの深い県神社も許波多神社、テクノミュージシャンの岡崎体育さんまで。みんなが宇治川の水や土や空気を纏っている。

そこでまず「宇治。土と水と神話に育まれた場所で」というフレーズを書きました。それをネイティブ監修のリッチが「Uji & its tea nurtures by earth, water and myth」というふうに英語化してくれました。これをさらに日本語訳すると、「土と水と神話に育まれた宇治、そしてそのお茶」という感じになります。「its」がポイントです。これは「Uji & tea」だと、宇治とお茶となってしまい宇治茶というニュアンスは無くなります。宇治と一般名詞としてのお茶。つまり静岡でもでもいい、普通にお茶というニュアンス。では「Uji & Uji tea」あるいは「Uji & Uji cha」とするとUjiが二回出てくるのがくどいのと、外国人観光客には「Uji」がそもそも地名をさしていることがわからない人も多いので、タイトルをパッとみてもどんな情報が載っているのか意味がすぐにわからないんですね。
この両者のニュアンスを汲み取って考えられたのが「Uji & its tea」なのです。これで「宇治と宇治のお茶」ということがわかり、ようやく「Uji」がおそらくはその産地か生産者の固有名だろうということが少なくとも伝わるわけです。

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話が脱線しましたが、じゃあ宇治川でいいじゃないかと。塔の島と朝霧橋、朝日山を背景に宇治橋からとった写真は宇治の象徴的風景です。全てが入ってる。上の写真はいまENJOY KYOTOのFacebookに使っていますが、これはこれで映画冒頭のタイトルシーンみたいで好きなのですが、でもこれじゃあペーパーの表紙としては、ちょっとありていにすぎるのと「神話性」が足りないと思っていました。もともと宇治は奈良に近いためか平安京以前の物語が多く残っている土地です。古畑神社などは伝承ではありますが中臣鎌足が創建したと言われているんですよ。645年とかです。そういう神話性がほしいと。そこで思いついたのが源氏物語宇治十帖でした。この絵巻の場面を表紙に持ってこれないかと考えて、調べて行くと源氏物語ミュージアムが保管しデータ化したものを展示しているとわかり、連絡したところ快く承諾していただきました。

宇治川の水と宇治橋、緑と土、そして平安人の物語。これで全てのテーマが揃う一枚絵になりました。このようなプロセスを経て、今回の表紙が決まったわけです。自分で言うのもなんですが、ネイティブチェッカーとの英語フレーズ化のやりとりも含めて、こんなに手間をかけて作っているフリーペーパーはまずないと思うし、今回参加してkルエタライターの高橋マキさんもおっしゃってたんですけど、翻訳校正が楽しいんです。ライターの皆さん、ここは声を大にして言いたい!校正が楽しい仕事なんて、まずこの世の中にないですよ。

というわけで、今日はここまで。次回から、中身のコンテンツについて一つ一つ具体的に紹介していきます。お楽しみに。

ENJOY KYOTOの2017年お正月号にして記念すべきIssue20について

あけましておめでとうございます。昨年は1月14日にブログで「失敗しよう」と年初の目標を書きました。それはまあ字義通りというよりはむしろ、失敗するようなチャンレンジをしようということだったのですが、結果的にはそれほど大きな失敗はなく、それはつまり思っていたほどには大きなチャレンジに挑むことができなかたということでもありました。
それでも、昨年末のブログ(大晦日に2016年の仕事をまとめてみました。 - ゴジマエ~後日読み返してもらいたいささやかなまえがき~)でも書いたように、大きな仕事ができたことについては自分にとってこの誓いが裏支えになっていたという実感はあります。大きな仕事や著名な方とのお仕事、多様な場で広く公開されるお仕事というのは、ともすれば致命的な悪評につながる場合もあるわけです。アーティストの方々と違い、ふだん無記名で仕事をしているコピーライターはあまりそうしたケースに慣れておらず、ゆえに「役不足ではないか?」と躊躇したり慎重になったりすることが往々にしてあるわけですが、その年初の誓いがあったおかげで、背中を押してくれたというのはあった気がします。引き続き今年も躊躇せずなんでもどんと来い!で、臆することなく取り組もうとは思っています。

さて、今年の目標はなにか?年初にテレビで市川海老蔵さんが「目標なんてないですよ。つねに通過点ですから」とおっしゃっていて、ああ、それは伝統芸能や伝統工芸なんかに携わっている方はみんなそうかもなあと思いました。ENJOY KYOTOで職人さんやお寺や神社の方々などとお話ししていると、やはりもっと大きな時間の中に自分の仕事を置いていて、1000年前と1000年後のあいだにある「いま」というわずかな時間を自分が担っている、という意識で仕事をされているように感じます。今回取り上げたお正月号に登場いただいた方々も、まさにみんなそのような大きな時間の中で仕事されている方ばかりでした。ざっとですが最新号の紙面をご紹介したいと思います。

表紙のおめでたい掛け軸とコンセプトフレーズ。

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ENJOY KYOTOは昨年11月で創刊から3周年を迎え、本年最初の正月号で20号目となりました。その記念すべき年初の号の表紙を飾るのは、巻頭特集でピックアップした表具師・井上雅博さん(京表具井上光雅堂)の最新作(完成直後に撮影した出来たてホヤホヤをお持ちして撮影しました)である「檜のお飾り」。花屋みたてさんの作品(みたて(花屋) - お正月飾り4 檜のお飾り(川合 優)... | Facebook)を掛け軸にしたこの作品は、お軸が立体パネルになっていて真ん中をくり抜き、そこに檜の木と枝、そして水引を施したみたてさんのお飾りを持ってきた斬新な掛け軸です。伝統あるものと新しいアイデアが融合したこの作品は正月らしさだけでなく、ENJOY KYOTOらしさという点でもぴったりの作品でした。そこでコンセプトフレーズとして掲げたのが“Reframe the traditional New Year style”です。「日本の伝統的なお正月をリフレームする」という意味なのですが、実はこのフレーズは僕が英語で書き、ネイティブ監修を担当しているリッチからOKをもらったものです。そして撮影はふだんよりお世話になっている正伝永源院さんのお茶室をお借りしています。撮影の時に偶然、お軸の中央近くに白い光が斜めに差し込んでいるのも、どこか神々しく、シンボリックな印象を与えています。

巻頭特集は表具師の井上雅博さんをピックアップ。

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キャッチフレーズは”Playing the supporting role to perfection”としています。英語にすると長いのですが日本語では「名脇役」という意味です。ぼく自身、井上さんとお話しするまで掛け軸や屏風というとやはり書や絵画など主役である作品のほうに目が行きがちだったのですが、今回取材したことで、たとえば奥さんの実家にある掛け軸をあらためて見て、これもどこかの表具師さんが仕事されたんだろうなあとか思ったりしました(もちろんかなり単純で質はまあ...という感じでしたが)。いずれにしても表具師さんというのはその作品を引き立てるのが仕事です。それでいて、そこにはその作品自身のコンセプトや描かれている絵画のモチーフ、描かれた書の意味などに合った材料や素材を選び、屏風や軸に仕立てるという作家性も求められます。そのあたりがなんというか良い監督の良い映画には必ずいる、演技派で渋い仕事をする名脇役をぼくに連想させるのです。

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考えてみれば海外でも額装とか額に彫刻を施すような仕事はありますが、表具師のような、完全に脇役に徹しながらそれでいてアートに通じる完成と高い技術を必要とする仕事というのは、ちょっと他になかなかないような気がします。そういう意味でもENJOY KYOTOらしいアプローチになったのではないかなと自負しています。井上さんはいま、表具師という唯一無二な技術を活かしてホテルやゲストハウスの室内装飾やインテリアの装飾、空間プロデュースのような仕事もされています。今回の取材でもそうした作品もご紹介しています。

初詣と、お守りについて。

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今年のお正月に奥さんの実家に子供らとともに帰省した際、いわゆる地域の氏神さんと呼ばれる小さな神社にお参りしたのですが、そもそもの初詣というのはこうした地域の氏神様に村の代表者が大晦日の夜からこもってそのまま年越しをして村の一年の安寧を願うものだったそうです。そうした初詣の起源を示しながら、今では宗教行事というよりも一年の誓いを立てたり運勢を占ったりする楽しいイベントになっていると書きました。そこには異教の人々含め外国人の観光客にも気軽に体験してもらいたいと考えてのことです。

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そしてお守りはデザインがかわいいものを集め、そのご利益とあわせて紹介しています。とくに外国人観光客向けということで上賀茂神社の「航空安全」のお守りはぴったりだなと思いました。今回、自分自身でそれぞれの神社に足を運び実際にお守りを購入して掲載することにしました(北野天満宮さんのみデータ支給が規則だということでしたので購入していません)。撮影したいというのもありましたが、やはりお守りというのは神様からの授けものですから、撮影用にお借りするとか無料でご提供いただくとかいうのは、ちょっと違うなあと思ったからです。なんというか、こういうの信仰者ではないのに、ちょっと罰当たりかもと感じたりするあたりも、もしかしたらちょっと独特な感覚なのかもしれませんね。

「縁起物」という日本的な慣習。

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お正月の縁起のいい食べ物を、ということで老松さん(京都の和菓子 老松)の花びら餅と、丸久小山園さん(京都・西洞院店 | 茶房「元庵」 | 宇治 丸久小山園)の大福茶を取り上げました。海外ではたとえば「縁起のいい食べ物」という発想そのものが基本的にないということです。考えてみればそうですよね。おせちなんかもそうですが、食べることや食材に意味を込めて、その意味に照らして食事をいただくというのは、日本人独特の思想なのかもしれません。「牛は神様の使いだから食べない」とか「まじないとして何かの薬草を食べる」みたいなのはありますけどね。ぼくもお正月に自分の実家に行くときに老松さんの花びら餅と丸久小山園さんの大福茶を買って行って家族でいただきました。

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あと老松さんに伺った時に花びら餅を作っているところを見せていただいたので、その様子を見ながら「ああ、これイラストで再現してもいいかも」と思いたち、実際に掲載してみました。大福茶の入れ方もそうですが、きっと完成形だけをみても、外国人のかたにはこれがどういうもので、どうなってできてるのか、わからないだろうと思ったからです。イラストはマムマムのぶりんさん(https://www.facebook.com/mammamnon/?pnref=lhc)に描いてもらいました。いつも可愛いイラストで紙面に華を添えてくれています。

子どもとお正月の遊びについて。

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この京こまは木ではなく布でできています。木の芯に布を何重にも巻きつけていくんです。神泉苑の向かいにある雀休さん(雀休 | 京の逸品 老舗モール)の中村さんはいまや京こまを作ることができる最後の職人さんなのです。で、実際にうちの息子たちにコマ回しをやらせてみたのですが、最初はこれがからきしダメで全く回らないんです(笑)。ところがそんな現代っ子でもですよ、回らないとなると回そうと頑張っていくんです。そしてだんだんとコツを掴んで、みるみる上手に回せるようになったんですね。なんというかこういう手先指先の感覚を使ってその力加減を感覚で調節しながら遊びを習得していく、というのは自分の記憶を振り返っても、やはりすごく大事なことなんじゃないかなと思いました。今だとなんでもボタンです。音楽を聴くのも、お茶を入れるのも、遊ぶのも、何から何まで、ボタンを押すくらいしか動作がないんですよね。これだとダメだなあとね、なんとなく感じました。

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凧と羽子板については、船はし屋さん(なつかしい京の駄菓子屋船はし屋)を取材。寺町四条を下がったところにある京都の人ならなんとなく知ってるはずの駄菓子屋さん。ここのご主人がとても面白い方で、絵を描いたり文章を描いたり多彩な方でした。店の中は懐かしいお菓子ばかりで、取材を終えた後は単純にお客としてお菓子をいっぱい買い込んでしまいました。

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というわけで、2017年最初の号はお正月の楽しさを新しく見直してみました。季節のお菓子をいただいたり、子供のことで神社にお参りしたり、床の間に時期時期のお軸をかけたり、花を飾ってみたり。そうした、当たり前のことを当たり前に、毎年毎年繰り返すことの豊かさについて、歳を重ねてみた初めてわかるようになってきたところがあります。そんなことを考えながら一年を始めたいと思います。で、今年は「実行」の年、とします。いままで考えてきたことを実行に移し、来年以降に華を咲かせるための準備になると考えています。いままで以上にいろんな人にお会いする一年になるだろうと思います。会いたいよー、と思ったらできるだけすぐに会いに行くようにします。話したいよー、と思ったらなるべく早くお話しに伺います。よかったら、笑顔で迎えてやってください。そしてよかったら、みなさんからも「会いたいよー」って言ってくれると喜びます。ちぎれるくらいに尻尾を振って会いにいくので、ぜひぜひよろしくお願いします!

大晦日に2016年の仕事をまとめてみました。

今年もあと一時間を切ったということで、今年の仕事の中から主なものをまとめてみました。

京都精華大学岸田繁京都精華大学ポピュラーカルチャー学部客員教員に就任。聴き耳の立て方、教えます」

www.kyoto-seika.ac.jp

3月に東京の某スタジオに行って、くるり岸田繁さんにいろいろとお話を聞くことができました。岸田さんに取材させていただくのはENJOY KYOTO Issue6での取材以来2度目。この仕事は2016年の仕事の中でも自分にとって、もっとも重要でもっとも楽しい仕事になりました。この仕事の告知をtwitterでしたところものすごいリツイートといいね!をいただき、また急激にフオロワーが増えたり、その新しいフォロワーさんとtwitterで交流したりということもありました。

Bluestone パンフレット&ウェブサイト

www.blue-stone.jp

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徳島の藍を使い、京都の職人さんが皮に藍染を施した「SUKUMO Leather」を使った高級スニーカーBluestone。開化堂の八木さんやダンサーの宮原さんへのインタビューをはじめ、ブランディングの重要な位置付けになるパンフレット&ウェブサイトのコピーを担当しました。

富士通テン

富士通テン ドライブレコーダー開発物語 | 富士通テン

富士通テンの開発に携わった技術者へのインタビュー。プロジェクトX的な感じで、できるだけ開発の中で起こったハプニングやエピソードを交えて生の言葉を伝えるよう心がけた仕事でした。

神戸電子専門学校 入学志願者向けパンフレット

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トノサマバッタのCMでおなじみの神戸電子専門学校の入学志願者への案内パンフレット。これまた東京に出張して、活躍するライターの池田園子さんにインタビューしてこれからクリエーターになることの可能性や心構えなどを語ってもらいました。

IYOCA 会員向け冊子

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行ったことのない愛媛の街の人の行動やショッピングスタイルを想像しながらいろいろと紙面企画やアプローチの仕方を提案しながら作りました。わりかし寛容かつフレキシブルに提案を受け入れてくれるクライアントなので、来年は町歩きをして、もっとリアルな提案もできたらなあと思います。

ENJOY KYOTO

1月号 Issue14
「Kyoto Otome Walk」をテーマに祇園東の舞妓さん・富津愈さんを巻頭特集に、英語を話せる舞妓さんとして海外の人に正しく舞妓の文化を伝えたいという彼女の想いなどを聞かせてもらいました。
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そのほかにもちせのトラジャムのしほさんや、かわいい雑貨屋さんSlepinng ForestのMicaさんに取材しました。
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3月号 Issue15
この号ではDeco Japanのページを担当。ファッションデザイナー菅井英子さんに取材して、ニューヨーク留学時代の話や、和と西洋との融合、伝統的な素材とハイテク素材との融合など着物の持つ可能性などについてお話を伺いました。
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また、宝酒造の広告ページでは和久傳さんとのコラボを企画。花見弁当とスパークリング清酒「澪」のペアリングを提案する広告に仕上げました。
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5月号 Issue16
5月号からは隔号で記事については1号まるごとぼくの担当となりました。今号では「Natural Health and Beauty Kyoto Style」をテーマに、森の案内人・三浦豊さん
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re:planterの村瀬貴昭さん、
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BefineのGoさん、
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おぶぶ茶苑の松本さん、
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tea cannnelの藤田さん、
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アド吉カイロプラクティックのアドさん、
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Toscaの橋本明朱花さん・朋果さん
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にお話聞きました。


7月号 Issue17
7月号は広告のみの担当。レギュラーの宝酒造さんの広告では、マドンナやスティングビョークなどのセレブを指導したこともあるヨガティーチャーのダンカンさんとベルギーからやってきて京都に住んでいるサロメさんをモデルに、ジェフ・バーグランドさんの息子さんが営むバーをロケーションに撮影しました。
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また京都府さんのページでは亀岡の商店街をフィーチャー。嵐山からのトロッコ列車と亀岡のTukTukに乗って北町商店街をめぐる旅を提案しました。
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9月号 Issue18
今号ではぼくがすべての記事を担当。京都とスポーツを特集しました。サッカーのサンガ、バスケットのハンナリーズ、女子プロ野球京都フローラを紹介しました。他にも上田滋夢さんのインタビューや、竹内アナウンサーのご尽力により京都のテレビ放送局KBS京都とメディアコラボして海平和アナと南ディレクターに取材しました。この号は「観光とスポーツ」というあまり京都の観光メディアでなかった取り組みとしての新しさもあって特別な思い入れがある号になりました。
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11月号 Issue19
今号では広告ページのみを担当。レギュラーの宝酒造のページでは利き酒会を旅館・八千代さんの協力のもとに実施。国籍や日本在住歴の違いを超えて、それぞれの好みの日本酒を探るいい企画になりました。
また王将さんの広告では餃子が無料でつくクーポンやinstagramに参加する企画を提案。結果は芳しくはなかったのですが、取り組みとしては面白いものになりました。

ENJOY KYOTOでは他にも今年はスポンサーでもある「おたべ」さんのお協力のもと祇園で展覧会を実施もしました。
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ENJOY KYOTOでは他にも今年はスポンサーでもある「おたべ」さんのご協力のもと祇園で展覧会を実施もしました。
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それからサンガの試合には割引クーポンをつけたことで多くの外国人がスタジアムに来てくれるきっかけづくりをすることもできました。
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というわけで2016年が終わります。仕事の面ではかなり充実していた一年ですが、その分ENJOY KYOTOでももっとやれたなあとも思いますし、自分が果たすべき役割をきちんと果たせてないなあとも感じました。
歳末に思ったのはぼくがコピーライター1年生の時に師匠からもらった言葉。それは「作品こそが最高の営業マン」という言葉です。そうしてそんな言葉を思いながら今年のネットメディアの趨勢を見て感じたのは、ネットが浸透して影響力も責任もより大きくなったことで、いわゆる普通のメディアになったこと。それに伴い今まで口先だけで人を欺いたり出し抜くことが影響力と考えてたような勢力やなんちゃってプロデューサーみたいな人種が滅びるだろうということです。そしてそれは長い目で見て、それなりに良いことなのではないかと思っています。

というわけで今年ももうあとわずかですが、来年はフリーになってまる5年を迎える年でもありますので、ちょっとここらで暴れてみようかなと思っています。とおりいっぺんの仕事は、今年以上に全部まとめて断ってやるぞという覚悟を持ってのぞむ所存です。なので、これはという仕事や一緒に楽しもうというプロジェクトの際にこそ、ぜひお声がけくださいませ(笑)。そして皆様も良いお年を!

宝ヶ池球技場へ京都府高校ラグビーの決勝「伏見工・工学院vs京都成章」を観に行ってきました。

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今日は宝ヶ池球技場に高校ラグビー京都府予選決勝を観に行って来ました。ラグビーの試合を生で見るのは本当に久しぶりでした。じつは高校2年生の春に一度だけここで試合をしたことがあります。ぼくは何も考えずにメインスタンドの空いている席に座ったのですが、たまたま伏見工・工学院のOBや選手のご父兄が周りにたくさんいらっしゃる場所だったので、伏見工・工学院の応援目線で試合を観ることにしました。

スタンドでは山口良治先生や大八木淳史さんの姿も見られました。もともとあのスクールウォーズで有名になった伏見工の名前が、再来年には完全になくなること、またOBの平尾誠二さんが今年亡くなったこともあったので、伏見工・工学院を応援しようと思っていたのですが、なんとなくそういう人は多いのかなとも思い、それはそれで京都成章の選手たちには気の毒というか、だからこそ、そういう大人の勝手な判官贔屓みたいのには負けずに、頑張ってほしいなあという思いも同時にあったのですけどね。

驚いたのは野球の応援みたいに部員たちが大声で応援歌というか、サッカーでいうチャントみたいなのをずっと叫んでいることでした。ぼくの時代にはあんなのなかったなあ。まあなんだか高校の体育祭みたいな雰囲気で和やかで楽しくはあるのだけど、ラグビーファンとしては選手の声や身体のぶつかる音もラグビー観戦の醍醐味なので、もう少し静かに見たかったなと思いました。

試合は一進一退の攻防でどちらに転んでもおかしくない、とてもいい試合でしたが、モールやラックなどフォワードの接点のところで京都成章がことごとく優位に立ち、伏見工・工学院はたびたびボールロストをしてしまったことが勝負を分けた印象でした。最終的には20-17で京都成章が勝ちました。伏見工・工学院は後半ロスタイムにワントライを返して最後に意地を見せてくれました。

久しぶりに高校生のラグビーを自分も高校時代にプレイしたことのある宝ヶ池球技場で見て、そして敗れて泣きじゃくる大男たちの姿を見て、素直に感動しました。じつはすでに伏見工としての募集を終えていて1年生は工学院の生徒となり、3年生がチームを去るとここにいる2年生が最後の伏工ラガーメンとなるのだそうです。それだけに強い思いがあったのだろうと思います。スタンドからも「2年生!あと一年あるぞ!来年頑張れよ!」という声がかかってました。

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そして、ラグビーがいいなあと思うのは、最後に相手校の応援席の前に互いの選手が来て挨拶していくところなんです。そしてその挨拶に自分のチーム以上の大きな拍手を互いにするところです。本当にノーサイドなんです。

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かつてユーミンが歌っていました。

なにをゴールに決めて、なにを犠牲にしたの?
誰も知らず。
歓声よりも長く、興奮よりも速く、
走ろうとしていたあなたを少しでも、
わかりたいから。
人々がみんな、あなたを忘れても、ここにいるわ。

www.youtube.com


ぼくも、秋の終わりの夕暮れのラグビー場だけにある美しさを目に焼き付けようと、遠く歓喜の声を上げる京都成章の選手たちと、その手前で涙にくれる伏見工・工学院の選手たちの、時を追うごとに長くなる選手たちの影を、そのふたつの感情のコントラストの残酷さを、いつまでもいつまでも見ていました。そこで、ふと気づいたことがありました。「ああ、オレあんな風に悔しがったこともう何年もないなあ」ということです。

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青春の時代には、そうたとえば恋にしてもそうですし、いろいろと叶わないことがたくさんあります。そして叶わない理由はたいていが理不尽で、努力とかプランニングとかマーケティングとかそういうこととは一切関係なく、ただ相手の女の子が自分を好きではないというただ一点それだけで、それらの夢やすべての努力は無残に敗れ去ります。しかし、大人になるとそういう理不尽な経験はだんだんとなくなっていきます。努力やプランニングやマーケティングによって、人は大きな失敗をしないよう入念に準備し、そして報われるような根回しやら大人の事情やらで、うまう立ち回ろうとします。失敗しても反省会議を開いてあすこがこうダメだったからだという言い訳をします。そして周囲や上司やそして何より自分を納得させるようにします。

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でもそんなのみんなウソだよなあ。伏見工・工学院の選手たちのあの態度が全てだよなあ、と。べつに勝った京都成章がより多くの準備と努力をしたわけでもないと思うんです。伏見工・工学院だってきっと負けないくらいの準備と作戦会議とをやってきたはず。でも勝つのはただ1校だけ。そこにはほとんど理由や根拠と呼べるものなんてない。でもだから悔しいんだと思うのです。だからこそ彼らあんなになって悔しがるんだろうと思うんです。「なんで?」とね。
「なんで?」と問うようなことは、ぼくはもう随分と経験していないような気がします。大人だから、たいていのことはちゃんと準備するし、ダメでもダメな理由がぜんぶキレイに説明できます。「なんで?」などと終わってから問うているようでは初めから準備ができていないんだと納得することもできます。それにそもそも失敗したらすべてを失うような取り組みかたは、むしろできませんしね。

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でも本当はそうじゃないんじゃないかなあ、とね。人目を憚らず泣きじゃくりながら全力で悔しがっている伏見工・工学院の選手たちを見て、ふとそう思いました。いいもの観たなあと。一人でふらっと行ったんですけど、誰かと一緒に行けばよかったと思いました。「ねえ、あれ、すごくよかったよねえ」としみじみ話しながら、ズンズン北山通を歩きたかったなあと。ゲームと秋の夕暮れの球技場の余韻に浸りつつ、そんなことを思いながら歩いていると、気づけば宝ヶ池から北大路まで歩いていました。もうそろそろ京都市内も紅葉の見頃が近づいています。紅葉が終わって、観光客の波が引いたら、冬はもうすぐそこです。

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今年も京都ヒストリカ国際映画祭がおもしろそう。

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いよいよ明日11月2日より、今年で8回目を迎えた京都ヒストリカ国際映画祭が京都文化博物館で開催されます。京都ヒストリカ国際映画祭というのは、世界中の歴史劇・時代物の映画を集めた映画祭で、まあこんなコンセプトでやっている映画祭は世界広しといえどもこの映画祭くらいしかまず見当たらないだろうと思います。そしてそれは、かつて時代劇華やかりしころに「東洋のハリウッド:と呼ばれた京都だからこそ意味のあることなんだと思うんです。

京都ヒストリカ国際映画祭とENJOY KYOTOの関係でいえば、一昨年にかなり深掘りしたインタビューをさせていただき、そうした京都と時代劇と観光の可能性についてのお話を、東映の高橋剣さんや京都ヒストリカ国際映画祭実行委員の衣川くるみさんと一緒にさせていただきました。
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時代劇映画制作のためのワークショップ「フィルムメイカーズ・ラボ」に世界中からクリエイターが集まってきている話や、時代劇とVRなどの先端映像技術の融合とか、いまあらためて読んでみてもENJOY KYOTOで自分がやろうと思っていることや、その後の京都の時代劇をめぐるある種のクローズアップのされかたなんかを先取りした内容になっているんじゃないかなと思っています。よかったら読んでみてください。↓
enjoy-kyoto.net

なかでも特筆すべきはこのインタビューの第10回特別編として、高橋剣さんや衣川くるみさんのご好意で、パトリス・ルコントのインタビューをさせていただいてます。いやあルコントはぼくにとっては青春というか、あのパルコ文化華々しい90年代初頭に「髪結いの亭主」「仕立て屋の恋」などを観て好きな監督さんだったので光栄でした。たぶんいまのところぼくが直接インタビューさせていただいた方の中で、もっとも世界で名前の知られた方であり、もっともVIPな人だったと思います。でもパトリス・ルコント監督はとても気さくな方で、大勢の取り巻きに囲まれたりすることもなければ、取材に関してのNGなどもなく、まゆまろとの記念撮影に応じたり、冗談を言ったり、とにかく和やかでフレンドリーな空気の中で取材は進行しました。
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続いて昨年の京都ヒストリカ国際映画祭では「大河の抱擁」というコロンビアの映画が来ていたのでそれを観に行きました。この作品はちょうどたまたまガルシアマルケスの本を読んでいたこともあって個人的にすごくよかったです。じつはこの作品はこの映画祭での上映後にアメリカのアカデミー賞で外国語映画部門にノミネートされ、次いで「彷徨える河」と改題されて日本でもロードショウ公開されるなど、京都ヒストリカ国際映画祭の先見の明が浮き彫りにした作品だったともいえます。またENJOY KYOTOで紹介したこともあってか「今年は外国人のお客さんが例年よりたくさん来場されています!」と衣川くるみさんからもおっしゃっていただきました。その辺りのことは去年このブログにも書きました。
naoyamatsushima.hatenablog.com


さて、いよいよ今年です。まずこれは記者発表での様子。2年前にインタビューした東映の高橋剣さんによるご挨拶。しかしお名前が「東映のケンさん」にして「剣」ですよ。もう時代劇を扱うことを宿命づけられたとしか思えないですよね。
ナビゲーターはアジア映画にものすごくお詳しい飯星景子さん。さすがに香港やインドの映画の紹介になると、その情報量と熱量が尋常じゃなかったですね。いやはや、さすがの解説でした。
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さて、話題的にはもちろん「The Homesman」が期待大なんです。この作品は、トミー・リー・ジョーンズが主演・監督も務める西部劇。といってもガンマンが活躍するアクション映画ではなく、アメリカ開拓時代を舞台に奇妙な旅を続ける人たちの運命を描いたロードムービー。なんといってもあのトミー・リージョーンズが映画祭に来場して、トークショー形式なのかインタビューなのかはともかく、作品についてみんなの前で語ってくれるということです。文博のシアターってのは結構コンパクトなので、かなり間近でハリウッドスターを見るチャンスです。さすがに今回はインタビューとかできないかなあ。できないよなあ。
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マスコミ的にはトミー・リー・ジョーンズの来場もあって「The Homesman」に話題が集中しがちなのですが、他にも今回けっこう好みな作品が多いんです。例えばこの「Baahubali –The Biginning」
この作品は映画祭のオープニングムービーとなっているインド映画。インド映画というといわゆる歌って踊ってというイメージがありますが、この作品はとても重厚で骨太な歴史大河作品。出生の秘密を知るために自分が赤ん坊の頃に拾われたという滝の上に行くと、そこで一人の女性兵士と恋をする。戦争中だった彼女の王国に兵士として助太刀するが、その敵国で自身の出生に関わる大きな秘密を知るという、まるで神話のような物語。超大作にふさわしいスペクタクルな映像が圧巻。
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「バタリオン」。
ロシアの映画で第一次世界大戦に結成された女性部隊を描いた物語。降着が続く前線で戦意を失い式の下がった男性兵士に対し、この「婦人決死隊」と名付けられた女性部隊の勇敢な振る舞いとその先に待つ過酷な運命を描いた作品。ヨーロッパらしい色調が美しい。
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「ウルスリのスズ」
アルプスの山奥で暮らす少年・ウルスリの冒険とその家族や友人との日常を描いた作品で、スイスでは名作絵本と言われる作品の映画化。ベルギーの「ブルーベリーヒル」とか、フランスの「みつばちのささやき」「マルセルのお城」といったあたりのヨーロッパの良質な少年映画の流れの作品かな。久しくこのタイプの映画を見ていなかったので楽しみです。
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「秘密が見える少女」
デンマークノルウェイチェコの合作映画。相手の目を見るとその人が恥だと思っていることが見えるという特殊能力を持ってしまった少女の物語。個人的にはもしかしたら案外これが一番いいんじゃないかと期待している作品。
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他にも今回は「ニンジャ映画進化論」と題して、1921年に尾上松之助主演で製作され、今回活動弁士付き上映の「豪傑児雷也」から、お色気たっぷり「くノ一忍法」、アニメ作品の「THE LAST NARUTO THE MOVIE」に「ミュータント・タートルズ」にいたるまで、あらゆるタイプのニンジャ映画を集めた上映も見どころ。これはねえ、全作通しで時系列で見たいなあというラインナップです。個人的には弁士つき上映の「「豪傑児雷也」と中島貞夫監督のデビュー作「くノ一忍法」が見たいかな。
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それに今回は歴史劇だけを扱うはずの京都ヒストリカ映画祭で初めて「わたしが棄てたナポレオン」「古都」というふたつの現代劇作品が上映されます。これは先にも触れた「フィルムメイカーズラボ」出身の監督が制作した作品で、いわば「凱旋上映」とでもいうことになるでしょうか。「カムバックサーモンプロジェクト」と名付けられております(笑)。

「わたしが棄てたナポレオン」はジョルジア・ファリーナ監督の作品でイタリア映画。イタリア映画というとビスコンティとかフェリーニとかパゾリーにとか重厚な芸術作品をイメージしがちだけど、ぼくはそうした作品も好きだけどイタリアのエンタメ映画はけっこう好きなんです。イタリアのエンタメ映画って「イタリア的恋愛マニュアル」とか「昼下がり、ローマの恋」とか、とにかく笑いあり涙あり、人生を謳歌しながらどこかうまくいかなくて、でも兄弟とか友人とか家族がいつも助けてくれてみたいな、人情モノというか日本のドラマやエンタメ映画に感覚が近いと思うんです。この作品もトレイラーを見てる限りテンポ良くて楽しめそうですね。
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「古都」は京都を舞台にした川端康成の小説を現代に翻案した作品。川端の小説はすごく好きな作品だったので、これを現代版にどう描くのかってのは、わりと楽しみです。監督はYuki Saito。出演は松雪泰子さん、成海璃子さん、橋本愛さん、奥田瑛二さんなどです。
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またこの映画祭の楽しいところは、映画上映後にその作品の監督や出演者など関係者によるトークショーがセットで行われること。今回もトミー・リー・ジョーンズだけでなく、昨年ぼくもENJOY KYOTOで取材(参照→
時代劇にまつわる随想 - ゴジマエ~後日読み返してもらいたいささやかなまえがき~
)させていただいた斬られ役でお馴染みの福本清三さんと殺陣師の菅原俊夫さんなどもゲストで登場されるそうです。

どの国にも歴史はあり、そして、どの国にも映画がある。先のインタビューでも話していたことなのですが、歴史映画を集めた国際映画祭というのは、ある意味では互いの国の歴史・文化・伝統を「楽しく」理解し合い、そしてリスペクトしあうのに、すごくいい機会なのではないかなとぼくは思います。歴史を語り合うとややこしい部分があったり、堅苦しい話になったりもしがちですが、歴史映画ならもっと肩肘張らずに気軽に語り合えると思うし、そこから互いをわかりあうことの第一歩になるんじゃないか。そんな試みにもこの映画祭はなるような、そんな気がしています。


京都ヒストリカ国際映画祭
●期間:2016年11月2日(水)〜11月13日(日)
●場所:京都文化博物館
www.historica-kyoto.com